2015.01.10 議会改革
【特別講義】議会改革の課題とこれから~機関としての議会の戦術、戦略を持て~
議会の戦略設定を
廣瀬 とはいえ、あらゆる議案について議会がそれをやっていられるかという問題もあります。ある意味、日本の議会は議論の余地のない議案もたくさん引き受けていて、それで随分忙しくなっている部分もある。私の実感としては、議案の数は減らし、その分でもっと審議を尽くす必要があると思います。この十分な審議には、それなりの判断材料が必要ですが、そのためには議会事務局を充実する必要があります。町村の議会事務局職員が平均で2人ということからいうと、たった1人増やすだけでも50%増となってしまいますけれど、それぐらいの人員増をして、審議を手厚くできるような仕組みをつくっていくべきではないかと思っています。
また、議会全体が戦略的に重要な課題にターゲットを絞り込み成果を上げるという意識を持たなくてはなりません。そうでないと、機関としての議会が何をやっているところなのか、いつまでたっても住民に見えない。だから「きっと何もしていないに違いない」という根拠のない批判と、その何もしていないはずの人たちが「報酬をもらいすぎではないか」という庶民感情があるわけです。町村議会の場合には、議員報酬だけでは生活できないような水準であるにもかかわらずです。
「いやいや、本会議が開かれていないときも、議会あるいは議員というのは、具体的にこういう形で仕事をしていて、その結果が生きてくるのです」というプロセスを、分かりやすい事例を通して住民にお見せしていかない限り、定数削減が進み、ますます議会と住民の距離が広がってしまうのです。
報酬はどうでしょうか。福島県の矢祭町というところでは、日当制に変えました。日当は本会議や委員会以外は出ないのですね。すると、行政の人や地域の方からは、「町の中で、ぱったり議員の姿を見かけなくなった」という声が聞かれました。いろいろな方からそう伺うのですけれども、議員さんご本人からはなかなかそれは本音としては語りにくいので聞こえてきません。
つまり、日当制により議員がいろいろな現場に足を運ぶということが少なくなってしまった。議員の活動はそういうふうに変わっていったのですね。人情としては理解できますが、それでいいといいたくはありません。しかし、実際のところ日当制にはそういう効果があるといえるのです。でも、そういうことに住民の方はなかなか納得しません。その中で削減、削減という風だけは吹いてくるわけです。
議会改革の第2ステップへ
廣瀬 北海道の稚内市議会では、議員定数削減の条例案が否決された途端、傍聴席から抗議のための猛烈なヤジが飛び交って、10分ほど収まらなかったそうです。そういう空気の中に、今の議会は置かれている。
そうした中、少し頭を下げて若干名、定員を削減して風をやり過ごそう──ということではなく、「いや、こういうことで仕事をしているのです。ぜひ見てください。一緒に仕事をしてください。皆さんの知恵も借りたい」と、住民との共同作業を通して議会の存在意義を伝えていくには、どうしたらよいでしょう。
まず、どんな政策領域がうちのまちでこれからツボになるだろうか、こういうことを議会の中で見極め、全会一致で取り組んでいく。議会改革の次のステップとして、そうした取組が求められているのではないでしょうか。
議会は、そのための調整の場を意識的につくっておく必要があると思います。
例えば、北海道栗山町や三重県のように議会改革推進会議のような改革を進めるための常設の機関を持っている議会もあります。会津若松市議会の広報広聴委員会のように、住民の意見を聞き、そこで吸い上げてきた住民要望の中から議会が戦略的に選び取るものを見極める、という例もあります。また、「議会の運営事項なのだから、これからは議運で意識的にそういうことをやっていくのだ」という議会もある。どのような場でも構いませんが、必要なのは「うちの議会の戦略的司令塔をここにしよう」という合意を、議員の中の共通認識としてつくっておくことではないかと思います。
そして、その責任者になった委員長あるいは座長は、各常任委員会の委員長などと常に連絡を取り合いながら、「次のポイントは何だろうか」、「これは常任委員会側にふるのか、それとも特別委員会を起こすのか」といったことを、委員長や正副議長と調整をしながら戦略を練る。
こんな議会をつくっていくことが、議会改革の第2ステップだと考えられます。それが、議会改革のこれからの姿を演出していく、構築していく、そういうことにつながると思っております。
本日はご清聴ありがとうございました。
(北海道町村議会議長会研修 2014年7月4日/札幌コンベンションセンター)