2015.01.10 議会改革
議員の民間企業からの隔離
隔離されるべき民間活動
法制的には、民間企業による請負契約の受注が想定されている。しかし、自治体と民間団体との関係は、請負契約だけではない。府中市条例が想定するように、下請契約や委託契約も、請負と同様である。その意味では、孫請けも指定管理もバイトの採用も同じである。このように、契約関係による発注は常に便宜供与の可能性がある以上、そもそも、契約は一切禁止されるべきとなり得る。こうした論理的帰結が、世間常識には合致しないのであるが、どこで線引きをすべきなのかは、大変に悩ましい。
こう考えると、自治体から議員本人や、議員の特殊関係者・支持者に図られうる便宜供与は、契約以外にも様々なものがある。法律よりも踏み込んだ制約規定を定める、いわゆる政治倫理条例では、自治体によって内容は異なるが、遵守事項としておおむね共通するのは、①不正疑惑行為の禁止、②地位利用の禁止、③公共工事・物品の購入等の有利な取扱いの禁止、④職員の採用あっせんの禁止、⑤他団体からの寄附等の禁止、⑥施設入所・入居の推薦等の禁止、⑦許認可等の有利な取扱いの禁止、などである。不正違法とは直ちにいえないにせよ、議員の地位にある者の公平さを欠いた行為を、極力抑止しようとする社会観念が醸成されてきているわけである⑷。
とはいえ、そもそも、自治体の仕事は役務提供であり、住民は役務提供を受ける権利があるのだから、自治体の活動の全てが、常に利益誘導の可能性を有する。逆にいえば、全ての自治体の行動に関して、議員・首長という為政者による不当な歪曲があってはならないのであって、請負契約だけの問題ではない。法的規定は、あくまで土建業が自治体為政者の「口利き」の中心であった前世紀の産物であり、福祉業が中心となりつつある自治体の実態には合わないといえる。
おわりに
請負先の決定は不明朗であり、かつ、議員に影響力行使の余地があるときに、議員を民間企業から隔離する必要が出てくる。しかし、この2つの条件を前提にすれば、隔離すべき範囲や民間活動は、ほとんど無限に拡大し、最終的には自治体と民間団体の関係が発生する全ての活動に及ぶ。こうしたことは現実的でもなければ常識に叶うものではないから、適当なところで妥協的に線引きをすることになる。しかし、そうした人為的な線引きを越境し、常に不当な行為をする誘惑があり、それが不正疑惑として常に問題とされうる。容易に解決はつかない。
隔離によって問題解決が果たされない。むしろ、本質は、請負先の決定などの自治体の各種決定が不明朗なこと、それ自体にある。自治体の意思決定が、公正・公平な基準に基づき、透明であれば、議員・首長が地位を利用して、私利私欲を図る余地は入り込めない。
議員は、本来、住民・支持者の利益のために、大いに「口利き」をすべきである。役務提供を求めるのは、住民の切実な権利であり、住民の代表者が「口利き」を止めることは、住民を代弁することを辞めることである。しかし、「口利き」は、公明正大かつ透明に議会の議場で、記録の残る形で、説明責任を果たしつつ、行うべきである。首長の部下に対する指示も、同様に記録を残す形で公明正大に行われなければならない。あるいは、首長も部下に対する指示は、議場で行うべきなのである。議会とは記録の場である。
⑴ 地方自治法96条1項5号により、一定金額以上、一定種類に限定する条例を定める。
⑵ 府中市議会議員政治倫理条例(平成20年3月31日条例26号)
第4条 議員、その配偶者若しくは当該議員の2親等以内の親族(姻族を含む。)又は同居の親族が経営する企業並びに議員が実質的に経営に関与する企業は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第92条の2の規定の趣旨を尊重し、市の工事等の請負契約、下請工事及び委託契約を辞退しなければならない。ただし、災害等特別な理由があるときはこの限りでない。
2 前項に規定する議員が実質的に経営に関与する企業とは、次の各号のいずれかに該当する企業をいう。
⑴ 議員がその経営方針に関与している企業
⑵ 議員が報酬を定期的に受領している企業
⑶ 議員が資本金その他これに準ずるものの5分の1以上を出資している企業
3 前2項に該当する議員は、市民に疑惑の念を生じさせないため、責任をもって関係者の辞退届を提出するよう努めなければならない。
4 前項の辞退届は、議員の任期開始の日又は第1項に規定する契約に係る事業を開始することとなった日から30日以内に市長に提出するものとし、その写しを府中市議会議長(以下「議長」という。)に送付しなければならない。
⑶ 国税徴収法38条を受けて、国税徴収法施行令では、納税者の「特殊関係者」を以下のように規定する。
第13条 法第38条本文(事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務)に規定する納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるものは、次に掲げる者とする。
一 納税者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、直系血族及び兄弟姉妹
二 前号に掲げる者以外の納税者の親族で、納税者と生計を一にし、又は納税者から受ける金銭その他の財産により生計を維持しているもの
三 前2号に掲げる者以外の納税者の使用人その他の個人で、納税者から受ける特別の金銭その他の財産により生計を維持しているもの
四 納税者に特別の金銭その他の財産を提供してその生計を維持させている個人(第1号及び第2号に掲げる者を除く。)
五 納税者が法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号(同族会社の定義)に規定する会社に該当する会社(以下「同族会社」という。)である場合には、その判定の基礎となつた株主又は社員である個人及びその者と前4号の1に該当する関係がある個人
六 納税者を判定の基礎として同族会社に該当する会社
七 納税者が同族会社である場合において、その判定の基礎となつた株主又は社員(これらの者と第1号から第4号までに該当する関係がある個人及びこれらの者を判定の基礎として同族会社に該当する他の会社を含む。)の全部又は一部を判定の基礎として同族会社に該当する他の会社
2 法第38条の規定を適用する場合において、前項各号に掲げる者であるかどうかの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況による。
⑷ この点も含めて、本論考は勢籏了三氏の教示及び問題提起による。厚くお礼を申し上げたい。