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2015.01.10 議会改革

議員の民間企業からの隔離

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隔離の範囲の拡大

 以上のように、請負先の意思決定は政治的に不明朗であること、その決定過程に議員がある程度の影響力を行使できること、を前提すると、隔離の範囲は「本人」だけでよいのか、という問題がある。つまり、「私利私欲」として議員が認識する範囲は、私本人とは限らない。議員は家族の絆を大事にすると推測すると、配偶者・兄弟姉妹・親・子など親族が経営する民間企業も、「自分の会社のようなもの」といえるかもしれない。
 「自分の会社のようなもの」には2つの意味がある。ひとつは、名目上は親族が差配者であっても、実態上は議員本人が差配者であるという、家父長的な傀儡差配の場合である。いまひとつは、実態上も別人格である親族が経営を差配していたとしても、その民間企業の利益について、議員本人が一体感を持つ場合である。つまり、親族経営の利益は、議員の私利私欲と同一、と議員自身が認識していることである。いずれにせよ、「自分の会社のようなもの」に対する請負決定は、利益相反の私利私欲の追求となり得る。当然、これらの民間企業からも隔離されるべきという発想も生じよう。
 例えば、「K井」建設(仮名)は、某市からの請負契約を結んでいるとする。ところが、この「K井ハラ」(仮名)社長が某市長又は議員に当選すると、請負を続けるためには隔離が必要になる。そこで、「K井」建設は、「K井ハラ」の実妹(2親等)の「K井ココロ」(仮名)に社長を譲ることで、隔離禁止を逃れ、某市と請負契約を結ぶことになる。これでよいのか、という問題である。
 隔離の範囲を拡げた事例が、最高裁判所まで争われた(広島県)府中市議会議員政治倫理条例である。その内容は、配偶者・2親等以内の親族・姻族又は同居親族・姻族が経営する企業、及び、議員が実質的に経営に関与する企業は、請負契約・下請工事・委託契約を辞退しなければならない、というものである

議員の利害関係の推定

 「自分の会社のようなもの」に対して、議員が私利私欲を図るとして隔離を図ることを制度化するときに、「自分の会社のようなもの」の範囲を画定することは、必ずしも容易ではない。上記の府中市条例は、その範囲を画定しようという苦心の産物である。
 そこでは、親族・姻族という属性に注目がされている。一般に、親族・姻族は「身内」であって、傀儡の依頼しやすさや利害関心の一体性が想定されることは、理解は容易である。しかし、家族関係や親戚付き合いは複雑であることもまた、世間の常識である。兄弟で本家争いをして、仲が悪いことはよくある。親子断絶・勘当なども、珍しいことではない。あるいは、別に険悪ではなくとも、兄弟姉妹など、独立した大人として経済生活を営んでおれば、ほとんど無関係ということもあり得る。
 もっとも、わざわざ険悪・絶縁関係の人間が議員をしている自治体に、受注をとりにいかないだろう、したがって、関係が良好であることを推定させる、という想定はあり得る。しかし、親族である以上、同じ地域で活動する可能性も高く、仲の悪い親戚が議員をしているせいで、制度的にも受注市場が狭まるのは、経済活動の自由の観点からは迷惑である。とはいえ、経済活動に人間関係が影響するのは市場原理といえども当然であり、仲が悪い人が多いのは、不利に作用するのは当たり前であって、やむを得ないのかもしれない。
 親族・姻族以外でも、「自分の会社のようなもの」はあり得る。例えば、「愛人」など、議員の「特殊関係者」が経営する会社は、「自分の会社のようなもの」かもしれない。「隠し子」の経営する会社も同様である。このように見てくると、議員本人が何をもって私利私欲を図るべき「自分の会社のようなもの」と考えるかは、非常に主観的であることが分かる。
 府中市条例のもうひとつの工夫は、「実質的に経営に関与する」という関係への注目である。「経営方針に関与」、「報酬を定期的に受領」、「資本金その他これに準ずるものの5分の1以上を出資」という、3つの概念を生み出している。いずれも説得的であるものだが、外形的に分かりやすい後二者に比べて、前者は判別が難しいという問題があろう。逆に、外形的基準に該当するものが、実質的な経営への関与を意味するとは限らない。なかなか難しい問題である。
 もっといえば、自分の支持者の経営する会社は、議員の私利私欲を図る対象であろうか。普通に考えれば、支持者から受注に便宜を図ってくれと頼まれて、「口利き」をすることに成功すれば、支持者からは集票・名声・感謝や政治資金などが期待され、議員個人の私利私欲にもつながる。議員は地位を利用して、直接には私利私欲を図るわけではないが、間接的には、支持者の企業の私利私欲を達成し、結果的には迂回的に、議員本人の私利私欲を図れる。とするならば、議員の支持者の経営する企業は、自治体からの受注は禁止させるべきということになる。
 この結論は、平均的住民の常識には合致しないだろうが、論理的な帰結である。受注者が住民である場合、議員は受注者たる住民に便宜供与することで、結果的には、自己の私利私欲を図れることになる。あるいは、議員を支持するかしないかで、住民を選別し、発注を餌に政治的な踏み絵を踏ませる。実はより深刻には、首長がこうした権力を乱用することがある。対立候補を推した企業には事業を発注しないことで締め上げる、ということをする。常識的な地元企業優先の慣行とは正反対に、本来は、自治体の事業の発注は、域内企業に対してなされるべきではないのである。

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