2015.01.10 議会改革
議員の民間企業からの隔離
条件1 ~請負先の決定は不明朗であること~
一見するともっともな隔離であるが、それが求められる環境条件を解剖する必要がある。もし、自治体による請負先の決定が、客観的で、公正中立な基準に基づき、透明かつ明朗に行われるならば、請負差配者が議員であろうとなかろうと、請負先の決定は左右されないはずである。例えば、一般競争入札で、単に応札金額の低い順で決まり、最低制限価格・低入札価格調査などがなければ、有無をいわさず落札者は決まるはずである。
逆にいえば、請負差配者が議員であるか否かが、請負先の意思決定に影響するということを前提に、現行法制の仕組みがつくられている。つまり、自治体における請負先の意思決定は、請負者と議員がどのような関係にあるのかということが、影響を及ぼすような性質のものであるということである。随意契約や、指名競争入札及びそれに基づく、大なり小なりの談合行為、さらには、首長による「天の声」、担当職員によるさじ加減、加えて行政主導の「官製談合」など、多様な不明朗性が立法事実として存在しているのである。
条件2 ~議員の「口利き」に執行部が屈する余地があること~
仮に請負先の決定が政治的に不明朗であっても、議員が意思決定過程での蚊帳の外の存在であるならば、隔離をするまでもない。請負契約を提携するのは執行部の任務であって、多くの契約は議会の議決対象ではないし⑴、そもそも、議員個人には何の権限もない。首長が「天の声」を発しようと、あるいは、行政職員が歪んだ起案を行って最終的に首長が決裁をするにせよ、議会の問題ではない。
請負先の決定という仕事が、執行機関で完結するものであれば、議員が請負差配人であるかは問題ではないとなろう。首長や行政職員を民間企業から隔離するだけで十分である。実際、首長に関しても、議員に関する規定と全く同様に、請負差配者になることはできない(地方自治法142条)。通常想定される行政職員は、そもそも、補助機関であって最終決定権はないし、兼業禁止によって請負差配者にはなれない。
しかし、議会や議員に請負先を直接に決定する権限はなくとも、議員が首長や行政職員に影響力を行使できるのであれば、議員は私利私欲のために「口利き」を行い、それに首長や行政職員が屈するかもしれない。そのような条件があれば、議員が、自分を請負差配者とすることを求める「口利き」をすることもあろうから、議員を民間企業から隔離する必要が出るというわけである。
首長や行政職員が、議員の要望にある程度は応えることが想定されるのは、議会が機関として議決権を持っているからである。執行部は、自らの施策の推進のためには、予算・条例など、機関としての議会の議決を要することが普通である。抽象的な機関としての議会の議決の実態は、端的にいえば、議員の多数派の同意ということである。個々の議員の同意を「買う」ために、個々の議員の「口利き」に応じる余地がある。つまり、ある議員Aの賛成を得ようとしたときに、A議員が民間企業a社の差配者であれば、その企業に発注をすることで、つまり、金銭(請負代金)を支払うことで、文字どおり「買う」ことができる。
もちろん、議会は多数議員からなる合議体であって、A議員の同意をa社との請負契約によって「買う」ことができても、執行部の施策に対して機関としての議会の同意を「買う」ことに直結するわけではない。だから、民間企業からの隔離は不要だとも考えることはできるかもしれない。自治体に、発注案件が1件しかないのであれば、そのとおりである。しかし、議会対策は個々の議員の同意の積上げである。B議員に関してもb社との請負契約で「買い」、C議員にもc社との請負契約で「買う」ことを続ければよい。したがって、議員に「口利き」の余地がある以上、隔離は必要となるわけである。
この隔離は、2つの面から必要である。第1は、議員が利益相反的に、議員としての地位を利用して、自己の私利私欲を図ることを防ぐためである。しかし、第2に、それより重要なことは、首長・行政職員などの執行部が、議会対策として、議員への「買収」行為をしないようにするためである。議員A、B、C…にとって、民間企業a、b、c…は関係会社であるので、どの企業が請負者となるかは死活問題である。しかし、x、y、z社ならば議員A、B、Cにとっていずれも無関係であるので、x、y、z社のどれに発注するかは、議員にとって私的利害の関心事ではない。ならば、執行部としても議会対策に使えない、ということになる。
議員と民間企業の隔離は、一見すると金銭欲に横溢する議員の私利私欲を抑制することを主目的にしているように見えるが、首長制での執行部側の権力的な優位を前提にすれば、むしろ、執行部側による議会・議員に対する操縦を抑制することが、主眼なのである。