2014.07.10 議会運営
第36回 起立表決による表決結果の公表について
起立表決による表決結果の公表について
長が提出した補正予算を臨時会において審議し、当該案件に対し起立表決により採決を行った結果、起立多数で可決となった。ここで、議会では議会基本条例により表決結果を住民に対し議会報等で公表すると規定していることから、賛成者及び反対者を議会報に掲載したが問題はないのか。
表決とは議長が宣告した問題に対し、各議員が賛否の意思を表明する行為をいう。
議会における表決の種類又は方法としては、①点呼表決、②分列表決、③挙手表決、④簡易表決、⑤起立表決、⑥投票表決、⑦電子式投票装置による表決等がある。
標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)では、そのうちの④~⑥の簡易表決、起立表決、無記名投票表決、記名投票表決の4つの表決方法を規定している。
ここで本問において行われた起立表決とは、市会議規則70条に規定された表決に付された問題に対して議長の求めに従って賛成又は反対の意思を有する議員をそれぞれ起立させることにより、議長が起立者が多数であるか少数であるかを全体として捉え、過半数の場合は可決を宣告する表決方法をいい、議会の表決方法の原則とされている。
【市会議規則70条】(起立による表決)
① 議長が表決をとろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、起立者の多少を認定して可否の結果を宣告する。
② 議長が起立者の多少を認定しがたいとき、又は議長の宣告に対して出席議員○人以上から異議があるときは、議長は、記名又は無記名の投票で表決をとらなければならない。
そして、起立表決に当たって各議員が起立すべき場所は本会議場の指定された各議員の議席とされ、議員が議場に現在していても議席以外の場所において起立しても原則として効力が生じないことに留意を要する。
さらに、起立表決において議長が問題を可とする者、すなわち賛成者を起立させることにより表決を行うのは、会議原則のひとつである可を諮る原則によるからである。可を諮る原則とは、表決において案件に対する賛成者の表決態度を求める方法をいい、賛成者先諮の原則ともいう。
なお、起立表決を行うに当たっては、投票表決のように議場閉鎖は必要がない。なぜなら投票表決は投票行為に時間がかかることから表決の瞬間を捉えることができないため、議場の閉鎖がなされるが、起立表決は議席における各議員の起立又は着席により議長が各議員の賛成又は反対の意思表示を瞬間的に捉えることができることから、議場閉鎖の必要がないからである。
さて、起立表決においては市会議規則70条1項に規定のとおり、議長が起立者の多少を認定するが、これは議長により起立者の具体的な把握を意味するものではなく、議長の目測による判断により多いか少ないかの認定を意味する。
起立表決は起立の瞬間を捉えて表決を確定させることから、理論上、瞬間的に誰が起立したかどうかを具体的に特定し把握することはあり得ず、それゆえ、起立表決において議員の賛否を具体的に把握し公表することは想定されていない。
そのため、案件に対する議員の賛否を明らかにするために、記名投票表決が市会議規則72条において規定されているのである。
【市会議規則72条】(記名投票)
記名投票を行なう場合には、問題を可とする者は所定の白票を、問題を否とする者は所定の青票を投票箱に投入しなければならない。
記名投票とは、投票表決の一種で、問題に対する賛否を表明するに当たり、議員の政治責任を明確にするため自己の氏名を明示する投票方法をいう。
記名投票を行うに当たっては、市会議規則72条のとおり議員は問題を可とする場合は所定の白票を、問題を否とする場合は所定の青票を用いることとしている。ただし、投票用紙に賛成又は反対の記載をするとともに、投票した議員の氏名を併記する方法をとることにより記名投票を行うことも可能である。
白票及び青票は所定のものを用いる必要があるが、どのような白票・青票とするかは投票管理者である議長の権限により定めることとなり、具体的には国会のような木札やプラスチック製の札等が想定される。
なお、記名投票を行うに当たり、白票及び青票は議席にあらかじめ置いておく必要がある。
記名投票を白票及び青票を用いて行う場合、投票用紙に賛成又は反対及び自己の氏名を記載する場合に比べ、当然他事記載や白票等による無効票が出るおそれは少ないという利点があることに留意を要する。
記名による投票表決が行われるに当たり、①市会議規則71条1項により議長が必要があると認めるとき、②市会議規則70条2項により議長が起立者の多少を認定しがたいとき、③市会議規則70条2項における起立表決の議長の結果宣告に対して出席議員○人以上から異議があるとき、④市会議規則71条1項により出席議員○人以上から要求があるときに行われる。
【市会議規則71条】(投票による表決)
① 議長が必要があると認めるとき、又は出席議員○人以上から要求があるときは、記名又は無記名の投票で表決をとる。
② 同時に前項の記名投票と無記名投票の要求があるときは、議長は、いずれの方法によるかを無記名投票で決める。
ここで市会議規則71条1項により議長が必要があると認めて記名投票が行われる場合は、①議長が重要な事件について各議員の表決態度を明確にする必要があると認める場合、②賛否が拮抗しており、起立表決によった場合、議長による多少の認定が困難であることが想定される場合、③議長の起立表決による結果、宣告に対し異議の申立てが予想される場合等が挙げられる。
そのため、本問のように議会で議会基本条例を制定し、表決結果を住民に対し議会報等で公表すると規定していても、起立表決により表決を行った場合は賛成者及び反対者を具体的に把握できないため、理論的には賛成者及び反対者を議会報に掲載することはできないものと解する。掲載するならば、その前段として記名投票により表決を行った上で公表するのが適当である。
しかし、実務上多くの議会で議員数が少なく、さらに事前に会派ごと等の議員の表決が事実上明確となっていることから、議場においても賛成者又は反対者が具体的に把握できるとして賛成者又は反対者を明示して公表することを行う議会が存在している実情がある。
各議会の責任と判断の上で行うことを否定はしないが、①事前に議員が明示した案件に対する意思表示と議場における議員の意思表示が異なった場合は、当然議場における意思表示が議員としての意思であること、②起立しない者が必ずしも案件に対する反対者とは限らず、棄権者が含まれること、それゆえ例えば賛成議員と反対議員が同数に近く、議長の議決結果宣告に異議が出るおそれがある場合、起立採決を行う前に起立しない者を否とみなす議長の宣告又は議会の議決を行う必要があること、③記名投票表決における投票用紙と異なり、賛成又は反対の意思表示の証拠が一般的にはないこと。それゆえ、録画中継などにより起立者と着席者が誰であるかを分かるように残しておく必要があること、④議会報で公表することはあっても、会議録では起立表決により賛成者又は反対者の別を掲載することは起立表決の性質から想定されていないことから記載のしようがないこと、等の問題点があることを了承の上行うべきであると同時に、市会議規則において記名投票表決方式を規定している場合、何のために規定しているのかを勘案する必要があるといえる。