2014.01.20 議会運営
第33回 当該地方公共団体の長に対する意見書の提出について
地方自治法99条に基づく意見書を当該地方公共団体の長に対して議会が提出することが可能か。
議会は地方自治法(以下「法」という)99条に基づき当該地方公共団体の公益に関する事件について、住民の代表機関である議会としての意見を国会又は関係行政庁に対して表明することができるようにするため、議会に意見書を提出することができる権限が認められている。
これは当該地方公共団体の事務に属さない事務や他の地方公共団体における事務について議会が処理する方法がないことや、当該地方公共団体の事務であっても現在の制度等においては適切な処理が困難である場合が想定されるため、これらを解決する一方策として意見書提出権が議会に認められているといえる。
【法99条】
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。
ここで、意見書は当該地方公共団体の公益に関する事件について提出することができるとされている。議会は公益に関する事件に該当するものであれば、自らの団体の事務に属するものに限定されず、公益に関すると判断される事件全てに意見書を提出することが可能である。しかし、公益に関する事件に該当するかどうかの基準を定めることは困難であり、該当するかどうかの判断に当たっては、事件の内容、性質及び社会通念に従って議会が個々具体的に判断する必要があると解される。
意見書の提出権は議員のみが有し、長には提出権はない。意見書を議会が提出するに当たっては機関意思決定議案であることから、標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)14条のその他のものの提出要件を満たす必要がある。それゆえ、○人以上の賛成者と連署して議長に意見書を提出する必要がある。そして、意見書を提出する際の名義は議長名で行う必要があることに留意を要する。
【市会議規則14条】
① 議員が議案を提出しようとするときは、その案をそなえ、理由を付け、法第112条第2項の規定によるものについては所定の賛成者とともに連署し、その他のものについては○人以上の賛成者とともに連署して、議長に提出しなければならない。
ここで、意見書の提出先として規定されている法99条における関係行政庁とは、国の機関たると地方公共団体の機関たるとを問わず意見書の内容について権限を有する行政機関を意味すると解され、原則として裁判所や議会は行政権限を有さないため含まれないと解される。なお、関係行政庁の具体例としては総務省や国土交通省等の官公署や日本銀行、公団、公庫等が挙げられる。
国会も行政権限を有しないが、2000年における地方自治法の改正により地方分権の進展に対応した地方議会の活性化に資するという観点から、意見書を提出できる対象に加えられた経緯がある。
ちなみに法99条における意見書提出とは別に、長又は議長の全国的連合組織(いわゆる地方六団体)は法263条の3に基づき、地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、内閣に意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができることとされている。
なお、議会によって提出された意見書について国会又は関係行政庁は、当該意見書を受理し誠実に処理する義務を負うと解される。
ここで、当該地方公共団体の長に対し議会が当該団体の事務に関し法99条に基づく意見書を提出することができるかについては、行政実例(以下「行実」という)昭和33年12月22日のとおり、議会は当該地方公共団体の長に対して当該団体の事務に関し法99条に基づく意見書を提出することはできないと解される。
○市長に対する行政区画の変更に関する意見(行実昭和33.12.22)
問 法第252条の19の指定都市において、法第99条第2項の規定に基づき議会が市長に対して区の区域の設定変更に関する事件につき意見書を提出することができるか。
答 設問の場合において市長は、関係行政庁に該当しないものと解する。
なぜなら、意見書の提出権を法99条により議会に付与したのは、地方公共団体の議会が本来の権限に属しない事項についてその意思を表示する根拠を意見書の提出という方法によって与えたものであると解され、そもそも地方公共団体の議会が当該団体の事務について当該地方公共団体の長に対して意見を述べる必要があるならば、議会が有する議決権・監視権をはじめとする議会の諸権限により意見書提出に比べてより直接的かつ強力になし得ることが可能であると解されるからである。
つまり、当該地方公共団体の事務について議会が当該団体の長に対して意見を述べるならば、法99条に根拠を求めて述べる必要はないということがいえる。
ところで、実務上どうしても当該団体の長に対して意見書を提出したいという要望が出ることがある。この場合は、意見書の文言から法99条の規定に基づきという語を削除し、決議として提出することができるため当該方法によることが適当である。