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2019.04.25 議会改革

【取材レポート】対話で実感、ゲームで納得の自治体経営/3つのSIM合同体験会

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 2019年4月13日(土)、東京都立川市の自治大学校にて「3つのSIM合同体験会~対話から広がる多摩地域のまちづくり」が開かれました。今回の合同体験会は、多摩地域にある4自治体(日野市、多摩市、小金井市、小平市)がそれぞれ作成した3つのSIMを、同じ会場で体験できるというものです。以下、イベントの様子をご紹介します。
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そもそも『SIM』って何?

 会の冒頭、パネルディスカッションに先駆け、早稲田大学マニフェスト研究所の青木佑一さん(コーディネーター)より、そもそもSIMとはといったお話がありました。

 『SIM』とは、架空の自治体を舞台に、自治体経営を未来にわたってゲーム形式でシミュレーションできる、“対話型自治体経営シミュレーションゲーム”。ここ数年、自治体関係者の間で急速な広がりを見せているものです。
simtohaSIMは、「限られた財源と時間の中で、事業の取捨選択に取り組むゲーム」

 SIMの起源をたどると、2014年に熊本県庁有志中心に作成された「SIM熊本2030」がオリジナルです。ゲームの参加者は架空の自治体の幹部になり、あらかじめ用意されたゲームのシナリオ(少子高齢化や財政の縮小が進展する2030年度までの(シナリオによっては2040年の場合も))に沿って、参加者同士で話し合いながら、事業の取捨選択を通じた予算編成、自治体運営を行います。

 実際のゲームは、1グループ5~6名の小さなグループ単位で行います。社会保障費等の費用が増加し、自治体が自由に使える財源が減少していくなか、新しい事業を始めるには既存の事業を廃止しなければなりません。限られた財源そして時間の中で、どのように予算を作るか、そこにゲーム性があり、個々のグループの対話の積み重ねがゲーム結果に如実に表れます。

 グループ内の対話を通じ編成された予算案は、その後、「議会」役(別のグループの参加者)によって審議(評価)されます。ゲームの中で2030年まで何ラウンドか予算編成を繰り返し行い、予算編成を疑似体験する中で、参加者は予算編成の難しさや未来を見据えて事業を取捨選択することの重要性、各部署の立場を越えた情報共有の重要性や、意見・見解の対立を対話で乗り越えることの重要性などを学びます。この「気づき」こそが「SIM」の魅力の1つと言われています。

 現在44都道府県、64のご当地SIMがあると言われています(2018年12月時点)。ゲームが想定するプレイヤーも不特定多数、自治体職員、住民にフォーカスしたものなど多種多様です。また、ゲーム実施の目的も、人材育成・組織開発を目的としたSIMもあれば、社会課題の解決に軸足を置いたSIMもあります。当日会場では、「SIMを行うこと自体が目的ではなく、何のためにSIMを行うのか、それをはっきりさせたうえで取り組むことが大事」といった指摘もありました。

mezasusugata何のためにSIMを行うのか、目的をはっきりさせることが大事

SIMに取り組んだきっかけは?

 続くパネルディスカッションで、イベント主催の4自治体の担当者(藤森友輔さん(小金井市)、飯島健一さん(小平市)、西村信哉さん(多摩市)、渡辺あゆみさん(日野市))より、それぞれのSIMの特徴や取り組んだきっかけなどについて、お話がありました。

 まず、多摩市の作成した「SIMたま」は、東京都内第1号のご当地版SIM。多摩市がSIMづくりに取り組んだきっかけは、市民にSIMを通して市の財政状況を分かりやすく伝えたいという狙いがあったとのことで、上司にも背中を押してもらい、仕事の枠組みの中で取り組むことができ、進めやすかったとのことです。
 これまでに体験会を4回開催しており、市民120名を含む計155名が体験しているそうです。今後も、自分事としてまちづくりを考え、立場を越えて対話できる人財(市民・職員)の育成に活用する予定です。

 次に、日野市の「SIMひの」は、庁内の自主研修グループが主体となって作成したものです。その活動の特徴は、<<SIMをつくること自体が研修>>と位置付けたことです。取り組みの過程で、各部の部長級職員に市が抱える課題や財政状況などをレクチャーしてもらうなど、自治体経営への理解を深めるなど、SIMづくりのプロセスを大切にし、勉強しながら一つ一つ積み上げてきました。

 3つめの、小平市と小金井市が2市協働で作成した「SIMけい」は、SIM史上全国で初めての取組みとのことです。小平市・小金井市の職員有志が、市域を超えて協力して、対話を重ねて作り上げ、今回が初めてのお披露目の場となりました。複数の自治体で作り上げているということもあり、1自治体に特化したシナリオではないことも、SIMけいの魅力のようです。
 小平市では今後総合計画の策定を控えており、その策定プロセスにおいてSIMけいを活用していきたいと考えているとのことです。

 コーディネータの青木さんからの「SIMを作成してみてどうだったか」との問いかけに対しては、「わがまち版のSIMのシナリオを作る過程で、自分の自治体に関しても理解が進んだし、日ごろの業務の説得力が増したように思う」、「若手職員は得てして自部署のことしかわからないという状態になりがちだが、SIMのシナリオを作る過程で、財政の勉強や市政全体の勉強をすることとなり、自治体のことをよく考えるきっかけになった」などのお話がありました。

 ディスカッション後、谷遼平さん(日野市企画部財政課)を講師としてプチ財政講座が開かれ、自治体財政について会場全体での共通認識を持つ場が設けられました。
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SIMの体験に先駆けて、会場全体で自治体の財政状況について共通認識をもった

いざ、SIMけい、SIMひの、SIMたまの体験会

 続いて、会場が3つに分かれ、SIMけい、SIMひの、SIMたま、実際のSIM合同体験会が始まりました。市長訓辞、辞令交付で第一ラウンドが始まり、シナリオの読み合わせ、事業の取捨選択、グループ内の対話など、ゲームが進んでいきます。
 模擬議会では別のグループによる予算の査定があり、グループ内での対話の練度が問われます。それぞれのSIMに、様々な工夫がこらされており、どの会場も、終始笑顔の絶えない様子、活発に意見交換を行っている様子がとても印象的でした。
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 昨年は、総務省「自治体戦略2040構想研究会」の報告書が提示したシビアな自治体の未来が、自治体関係者内で話題となりましたが、今後少子高齢化の一層の進展により自治体を取り巻く状況が激変していくことが想定されるなか、自治体職員、そして住民が、自分事として自治体の未来を考え、まちづくりに主体的に関われるようになるためのツールとして、SIMは非常に期待されます。
 3つのSIM合同体験会も、元々は2017年2月に多摩地域の勉強会タマガワリーグにおいてSIMを体験したメンバーを中心に、自分たちのSIMを作ろうという機運が高まったことがきっかけとのことで、今回のイベントをまた更なるきっかけとして、今後全国の自治体、地域において、新たなSIMが生まれていくのではないでしょうか。

〔参考記事〕
・【熊本県庁 和田大志氏 #1】ゲームでこれからの自治体経営を考える(Heroes of Local Government)
https://www.holg.jp/interview/wadataishi/

・幹部に成り切り予算編成 まちづくりゲーム体験記(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/v4?id=201606simchiba0001

・対話型シミュレーションゲーム「SIM熊本2030」を活用したまちづくりのカタチヅクリ(熊本大学)
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/seisakusozo/compe/2014/poster/poster2014_1.pdf

『議員NAVI』編集部

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