元日本経済新聞論説委員 井上繁
消防官以外の職業に就きながら、火災や災害の発生時に現場に駆けつけて消火や救助活動の一翼を担う消防団は、日頃の地域防災で大事な役割を果たしている。しかし、高齢社会に入った今日、そのなり手が少なく、団員集めに四苦八苦している自治体が少なくない。1954年には全国で202万人いた団員が今は90万人を割り込んで、年々減少している。
こうした中で、愛媛県松山市の消防団員数は順調に増えている。同市は2005年に北条市と中島町を編入合併した。現在の人口は51万8,000人である。合併時の団員数は2,147人だった。2015年4月1日現在は2,410人のため、10年間で263人、12.2%増えたことになる。現在の松山市消防団条例によると、消防団の定員は2,501人であり、定員充足率は96.4%である。団員は消防団本部と9方面隊41分団のいずれかに所属して活動している。
松山市で消防団員が順調に増えているのは、団を取り巻く環境の変化に合わせ、団員のすそ野を広げる対策を次々に打ち出し、効果を上げているからである。
女性が消防団員になれるように消防団条例の入団資格を改正したのは2002年である。女性団員は94人で、全員が本部の女性分団に所属し、日常の防火、防災の普及啓発を中心に活動している。2005年には条例5条の入団資格のうち、「本市の区域内に居住する者」を「本市の区域内に居住し、勤務し、又は通学する者」と改めた。この改正後、まず当時の日本郵政公社(現日本郵便)松山西郵便局に本部直轄の機能別消防団員としてファイヤー・ポストマン・チームが発足した。機能別消防団員は、すべての災害などで活動する従来からの基本団員とは違い、特定の役割だけを受け持っている。特定の役割は、普及啓発や大規模災害時の後方支援活動などである。総務省消防庁によると、機能別消防団員を導入したのは同市が最初である。2013年には同チームが市内のすべての郵便局にできた。
機能別消防団員としてはほかに、大学ごとの大学生消防団員(大学生防災サポーター)と事業所消防団員の制度が2006年に始まった。大学生消防団は、現在市内4つの4年生大学で組織されており、団員は総勢106人である。事業所消防団は2社で設けており、団員は合わせて22人である。
2012年には、もうひとつの機能別消防団員として島しょ部だけの女性消防団「アイランド・ファイヤー・レディース」が発足した。漁に出て島を離れがちな男性に代わって、災害の現場で消火や傷病者への応急手当を実施するなど大事な役割を担う。人数は11人で、発足後変わっていない。今のところ出動しなければならない災害などは発生していない。
こうした多様な消防団員確保対策に取り組むのと並行して、消防団の定員増のための条例改正を何度も行っている。編入合併前の2002年にはそれまで1,342人だったのを1,400人に増やした。2004年には翌年の合併に備え、定員を2,301人と大幅に増やした。2008年にはそれを2,451人に、2013年には2,501人とし、現在に至っている。
このほか、定年基準を2度改正して、年齢を引き上げた。2006年にはそれまで55歳だった団員階級の定年を57歳に、2008年にはそれを60歳にした。団員が減らないようにする方策である。それでも、学生や事業所の消防団などがあるせいか、同市の消防団員の平均年齢は43.9歳と比較的若い。
条例とは別に消防団を応援する活動も盛んである。総務省消防庁は、2007年から消防団協力事業所表示制度を導入しているが、松山市は国より基準を下げ、独自に同年から2人以上の団員が在籍している事業所に表示証を交付している。現在は国の表示交付事業所が10事業所、市独自の表示交付事業所が31事業所になっている。協力事業所は、消防団員が勤務時間中、現場に出動しても出勤扱いにするなど便宜を図っている。
「まつやま・だん団プロジェクト」は、消防団員を市民が応援することで、団員の士気を高め入団者を確保することを目指して2012年から続けている。消防団員は、団員証を提示することで一部の飲食店などで割引などのサービスを受けられる。すでに104の応援事業所が登録されている。これとは別に、市内25か所には、「がんばれ消防団」と表示した飲み物の自動販売機が設置してある。市消防局が飲料販売会社に働きかけて実現した。自販機の売上げの一定割合を消防団のために寄附している。こうしたまちぐるみの取組も団員の増加に一役買っている。