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2015.05.11 政策研究

雲散霧消した姉妹都市交流の教訓

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 それは華やかな式典だったらしい。2000年9月に京都府京北町役場で行われた同町とニュージーランドのテームズ・コロマンデル行政区マーキュリーベイ地域との姉妹都市提携調印式や、その後の祝賀会のことである。
 調印式には、同国からクリストファー・ラックス行政区市長らマーキュリーベイ地域友好代表団14人が出席し、当時の草木慶治京都府副知事と、ニュージーランドのフィリップ・ギグソン駐日特命全権大使が立ち会った。石浦道男町長とラックス行政区市長らが盟約書と協定書に調印した後、記念品を交換した。祝賀会では、祝吟や大正琴などの記念アトラクションが盛大に催された。
 人口約7,000人だった京北町発行の「広報けいほく」2000年10月号は、「21世紀に向け新たな1ページ」として、10枚の写真とともに3頁にわたりその模様を紹介している。見開きの見出しには、「両都市の繁栄を願い固い握手」とある。
 マーキュリーベイ地域は、この国の空の玄関口のひとつであるオークランド市の南東に位置し、コロマンデル半島の東海岸沿いに広がる。人口は約5,000人、その70%は中心都市のフィティアンガに集中している。海水浴や釣りのほか、スキューバダイビング、ヨット、サーフィンなどのマリンスポーツが盛んで、レジャーシーズンの夏に、同地域の人口は5倍以上に膨れ上がる。
 ニュージーランド側は、提携の1年前に日本との友好団体としてマーキュリーベイ・ジャパン・ソサエティ、日本側は提携の1か月前に京北・フィティアンガ友好協会を設立している。京北・フィティアンガ友好協会の会長は、大西美三夫町議会議長だった。
 協定書には、「両都市は、教育、文化、スポーツ、産業、観光等の交流を積極的に推進し、さらに事業発展させるために努力する」などと記している。ところが、あれから14年以上が経過した今、交流は全く行われていない。
 その直接の理由は、京北町が2005年、京都市に編入合併されたことにある。発足当初からマーキュリーベイ・ジャパン・ソサエティの会長を務めたデヴィッド・リンチ氏に現地で取材し、理由はそれだけではないという思いを強くした。リンチ氏は、ニュージーランド政府観光局日本代表を15年間務め、同国に合気道の道場を開くほどの親日家である。
 氏によれば、交流は京北町の方が熱心だった。日本側は、自治体が姉妹都市交流費などとして必要額を予算に計上することが多い。調印式で来日した際、ニュージーランド側の参加者が支払ったのは京都での宿泊費だけで、その後の奈良見物の費用や航空券代などいっさいを日本側が負担した。「至れり尽くせりでした」とリンチ氏は回想する。過剰な財政負担が交流に当たって重荷になっていたことが容易に想像できる。
 その後は、双方の中学生や消防団が訪問し合ったり、3か月間の短期交換留学生を派遣したり、受け入れたりして交流を続けた。マーキュリーベイ・ジャパン・ソサエティの会員はニュージーランド人を中心として30人で、活動資金の足しにするためフィティアンガで日本を紹介するイベントを催すなど市民交流の橋渡し役を担った。
 京都市と京北町の合併協定書には、「京北町の国際交流都市(略)交流は、姉妹都市(略)としての関係を解消し、合併後は市民レベルでの交流を中心とする方向で調整する」と書いてある。だが、ニュージーランドの人たちはこうした事情を正式には知らされていない。「あやふやなまま交流は消えてしまった」(リンチ氏)形である。交流の相手がなくなり、マーキュリーベイ・ジャパン・ソサエティは8年間の活動に終止符を打って解散した。
 同じ編入合併でも、2005年から2006年にかけて新潟県長岡市に編入された旧小国町や旧和島村の海外との姉妹都市交流はその後も続いている。それどころか、2006年に長岡市長と相手地域の首長が改めて姉妹都市友好宣言書を取り交わしているほどである。
 旧京北町の場合も、相手地域との関係が経済的に対等で、交流組織を民間中心に運営していたら、自治体の消滅とともに雲散霧消といった事態は避けられたのではなかろうか。

マーキュリーベイ地域最大都市のフィティアンガマーキュリーベイ地域最大都市のフィティアンガ

井上繁(元日本経済新聞論説委員/元常磐大学大学院教授)

この記事の著者

井上繁(元日本経済新聞論説委員/元常磐大学大学院教授)

元日本経済新聞論説委員/元常磐大学大学院教授 早稲田大学政経学部卒業後、日本経済新聞社に入社。自治、地域問題担当の編集委員、論説委員などを歴任。社説、時評などを執筆した。2000年に常磐大学に転じ、大学院コミュニティ振興学研究科教授などを務めた。 著書に『世界まちづくり事典』(2008年度日本都市学会賞受賞)、『日本まちづくり事典』、『自治体の地域政策』『共創のコミュニティ』、『地域連携の戦略』など。

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