2017.07.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その25)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで2年間・24回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討してきた。前回は「第Ⅵ章(1) 住民参加の充実、住民の信頼確保を図るための地方議会のあり方」の「第2節 地方議会への住民参加のあり方」「(1)住民参加の意義」について論じた。今回は、「(2)議会への住民参加のあり方」を検討してみたい。
議事機関としての議会への住民参加
前回検討したように、住民参加といっても、議事機関としての自治体議会への参加と、公選職政治家である議員個人への参加の、2つの可能性がある。しかし、首長側の住民参加との均衡でいえば、前者の方が重視されるのが自然である。後者の場合を重視しないのは、単に首長という政治家が後援会その他で支持者・住民とコミュニケーションしているということを、通常は首長側への住民参加とはいわないからである。そこで、『報告書』でも議会への住民参加とは、「議会における審議・議決に反映していく」ものとして、想定している。
「①議会の決定過程への住民参加」が基本となるのは、『報告書』として自然である。しかし、『報告書』によれば、公聴会、参考人、専門的事項に係る調査制度など、すでに充分な制度があり、それを積極的に活用すればよいということになる。もっとも、実態調査によれば、公聴会も専門的事項に係る調査も低調である。参考人の方がまだ活用されているという。その意味では、住民参加をする制度は整備されており、あとは、各議会の判断次第ということである。
もっとも、仮にそうであるならば、なぜ、現状の自治体議会は公聴会などの活用に消極的なのか、それを積極的にするにはいかなる方策が必要なのか、を論じなければならない。しかし、『報告書』では掘り下げた検討はされていないのである。簡単にいって、既存の議会は住民参加に消極的であり、それゆえに、制度として活用できるものは整備されているとしても、実際には活用されない。なぜならば、議会に住民参加をしても、議会としてメリットがないと考えられているからである。こうして、首長側に傾いた住民参加という状態は続くことになる。
公聴会・参考人制度の限界
もっとも公聴会制度等がすでに充分な内容であるか、といえば疑義も提示されている。公聴会は、重要案件の審査を周到に行うため、真に利害関係を有する者又は学識経験者などから意見を聴くものという。しかし、逆にいえば、一般的な利害関係を持つ一般住民の声を反映しないということでもある。参考人制度も、委員会の審議の充実を図るため利害関係人・学識経験者等の出頭を求めて、意見を聴取するものである。ここでも、一般的な利害関係を有する一般住民の声を反映しないということである。
つまり、利害のしがらみのある少数の特定の人(利害関係者)の声を聴くというものである。多数派の専制によって特定の利害関係者に不利益を集中させることに対して、声を上げる機会を設けるという点で、少数派保護や自由主義的な観点からは重要である。しかし、こうした利害関係者に対して、単に既得権益の死守の機会を与える可能性もある。また、多数決民主主義的な観点からは、一般住民の多くが求める声は届ける場がないということでもある。
加えて、公聴会や参考人制度は意見を聴取するにとどまる。『報告書』でも、住民が積極的に発話する仕組みも考えられるとする。また、公聴会の公述人も参考人も、議会が基本的に決めるものであり、いわば議会側が選任する。これに関しては、標準会議規則では、公聴会の公述人について、意見を述べようとする者の申出を認め、それらの者も含めて公述人を決定することとされている。時間の観点からはやむを得ないかもしれないが、議会側が決定することは避けられない。そもそも、公聴会も参考人制度も、活用するかどうかは議会の意思次第なのである。
なお、このように議会で公述人・参考人を決定するとなれば、結局は議員間・会派間の合意に依存する。となれば、政党化された都道府県・大都市議会などでは、結局、各党派にとって都合のよい、つまり、意向のあまり異ならない公述人が選ばれるに決まっている。それでは、議員間・会派間の審議との差別化が図れないと、『報告書』でも指摘されている。政党化が進んでいない町村議会ならば活用の余地があるという意見を、『報告書』は紹介している。しかし、議員間の合意で公述人・参考人が決まる以上、結局、各議員の思惑に沿って、発言者が選定されるだけなのである。政党化の度合いは本質的な違いではない。