2025.07.25 政策研究
第64回 経営性(その4):公営企業
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
自治体は行政団体であるが、民間企業と共通する原理で経営をしている自治体の組織部分が、公営企業である。前回(第63回=2025年6月25日号)に触れた第三セクターは、自治体とは別の団体・法人であり、最終的には破綻・清算処理することができる。しかし、公営企業は、企業的に経営するものではありながら、団体・法人としては、自治体そのものの一部である。つまり、自治体という団体・法人自体としては、行政部門として最終的には法的権限・義務を負っており、また、租税収入や地方財政保障によって担保されている。その意味では、第三セクターよりは行政の側面が近い組織部分である。今回は、公営企業について論じてみよう。
公営企業制度の概要(1)
公営企業は企業としての性格を有する。自治体(地方公共団体)が、住民の福祉の増進を目的として設置し、経営する企業である。事業の例としては、上・下水道、病院、交通、ガス、電気、工業用水道、地域開発(港湾、宅地造成等)、観光(国民宿舎、有料道路等)などがある。自治体の一般行政事務に要する経費が、権力的に賦課徴収される租税によって賄われるのに対し、公営企業は、提供する財又はサービスの対価による料金収入によって維持される独立採算制が原則である。
公営企業は、企業としての合理的・能率的な経営を確保するために、経営の責任者の自主性を強化し、責任体制を確立する必要がある。そこで、地方公営企業の経営組織を一般行政組織から切り離し、経営のために独自の権限を有する(公営企業)管理者(任期4年)を設置する。公営企業は、自治体(地方公共団体)とは別の独自の法人格は持たない。管理者は自治体を代表する。ただし、地方債の借入名義は、自治体の首長である。
公営企業の使用者側が管理者だとすれば、労働者側の企業職員の位置付けが重要である。給与については、職務給(職務遂行の困難度等職務の内容と責任に応ずる)であることに加え、能率給(職員の発揮した能率を考慮)であることを要するとされる。もっとも、近年では、一般の自治体職員についても、人事評価を反映した給与が導入されている。人事委員会は、企業職員の身分取扱いについては、任用に関する部分を除き、原則として関与しない。企業職員には団体交渉権が認められている。そして、給与・勤務時間その他の勤務条件については、公営企業の管理運営に属する事項を除き、団体交渉の対象とし、労働協約を締結できる。しかし、企業職員に争議権がないことは、一般の自治体職員と同じである。
公営企業の財務については、事業ごとに経営成績・財務状態を明らかにして経営すべきものであることに鑑み、経理の事業ごとに特別会計を設置する。その性質上公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費、及びその公営企業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが困難である経費については、自治体の一般会計又は他の特別会計において負担する。それ以外の経費については、公営企業の経営に伴う収入をもって充てる。その意味で、独立採算制の原則は修正されている。
公営企業の会計は、いわゆる企業会計方式をとっている。自治体の通常の一般会計・特別会計は、いわゆる官公庁会計方式をとっているので、この点が異なる。官公庁会計方式は現金主義会計・単式簿記であるが、公営企業会計では発生主義会計・複式簿記を採用している。そのため、損益計算書、貸借対照表等の作成を義務付けている。もっとも、近年の公会計制度改革により、自治体についても貸借対照表の作成がなされてきている。