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2017.05.12 政策研究

第6回 監査では、実地検査(実査)でどんなことをしているのか?

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人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥

 本連載第4回でもご紹介したように、議選監査委員制度を廃止するバーターとして、「執行機関を監視する機能を強化するため、議会に実地検査権を付与すべきではないか」という議論が第29次地方制度調査会においてなされた(1)
 戦前の議会には実地検査権が付与されていたそうだが、戦後は廃止されたので、多くの議員や議会にとっては、実地検査のイメージはつかみにくいのではないだろうか。

公立病院の貯蔵品実査に見る実地検査権(実査)の実態

 実地検査権とは、具体的にどんなものなのであろうか。具体例として我が市の監査委員の実地検査の事例をご紹介したい。これにより、議会に実地検査権が与えられたメリットと、議選監査制度を失うデメリットとは釣り合いがとれないという私の主張も、ご理解いただけることと思う。
 ここで、あらかじめ語句の定義をしておきたい。というのも、「実地検査権」という語句は、我が市の監査基準にも、監査計画にも、登場しない。実地検査権に相当するものが、「実査」という語句である。「実査」の定義は、我が市の監査基準では、「事実の存否について、実地に現物検証、現場検証等によって直接検証する」こととある。実地検査権=実査と素直に見てよいであろう。以降は、実地検査権=実査として論を進める。
 まずは、つい先日実施した、我が市が運営する公立病院の貯蔵品実査を事例に、実地検査のイメージをつかんでいただこう。この貯蔵品実査は、病院事業会計の決算審査の一部として実施される。我が市の監査計画では、決算審査の実施方法として、「決算書類の計数確認や調査等を行うとともに、財産の増減及び現在高を確認するため、一般会計の公有財産調査及び企業会計の貯蔵品実査を行い、その後、説明聴取を実施する」と書かれている。
 監査計画の中に「実査」の言葉が出てくるのは、この貯蔵品実査しかない。我が市の公立病院の貯蔵品は、主に薬品や診療材料である。あらかじめ公立病院の事務責任者が、実地たな卸を実施し、監査委員は、当該実地たな卸実施後の「たな卸資産たな卸表」をもとに実査を行う。
 「在庫」といっても、例えば薬品だけで約400品目あり、その全てをチェックすることは困難である。そのため「たな卸資産たな卸表」からいくつか抽出してサンプル調査を実施する。このサンプル調査のことを、我が市の監査基準では、「試査」として、以下のとおり定義している。「試査は、監査等の対象となっている事項について、その一部を抽出して調査し、その結果によって、全体の正否又は適否を推定する」。
 単価の高い薬剤に関しては、転売も可能である。ちょうど、この稿を執筆中にも、神奈川県のある市立病院で、同病院の薬剤師が抗がん剤54万円分を転売して逮捕された。ただしこのケースでは、監査による貯蔵品実査で転売が発覚したのではなく、病院内部での指摘によって明らかになったようだ。
 いわゆる麻薬類については、全品目をチェックすることとしている。この全品目のチェックを監査基準では「精査」といい、「試査」と違い、「全部にわたり精密に調査」すると定義されている。
 麻薬類は、主に鎮痛剤としての利用が想定されている薬品である。なぜ、麻薬類を「精査」対象にしているかといえば、これらの薬剤は、窃取した場合、刑法の窃盗罪のみならず、麻薬及び向精神薬取締法の罰則規定にも触れることとなるからだ。筆者も3年前に、麻薬類の「精査」を行った。その際には、貯蔵品リストに記載されていない薬品が麻薬類専用の貯蔵庫にあることを発見した。これこそ、実査の成果である。監査委員による実査の前に、病院事務局でも一通りたな卸を行うが、リストに掲載されている薬品のチェックに限定されているせいか、見逃してしまったようだ。これらの薬品は、患者が以前の入院先から転院した際に持ち込まれたものだという。担当薬剤師の話では、いずれにせよ麻薬類は、保健所にも届けるなど厳密な管理をしているので問題ないとのことであった。今回も、念入りに保管庫をチェックしたことはいうまでもない。

学校監査でも薬品チェックは重要

 貯蔵品たな卸とともに、実査として時間をかけて取り組んでいるのが学校監査である。学校監査は、定期監査及び行政監査の実査として実施される。我が市の場合、市立小中学校が学校監査の対象となる。市内公立小中学校全てを3年かけて学校監査する。
 学校を運営する教職員は、ほとんどが県職員である。しかし、学校の施設や備品は、市の所有物であり市の管理下にある。学校施設の不備によって訴えられるのは、市である。よって、監査の対象は、学校教育内容などではなく、施設や備品の実査が中心となる。私が学校監査を初めて経験した際には、それぞれの学校運営方針などを冒頭に説明いただき、それに対する質疑応答などもなされていた。しかし、そうした質疑応答は、そもそも学校監査の本来の目的からそれることと、この質疑応答によって、実質的な実査の時間も減ってしまうことから、近年は、そうした質疑応答は極力簡素化することとした。
 学校監査の実査では、具体的にどのような項目をチェックしているのか。基本的には、何らかの事故につながりかねない項目について念入りにチェックを行っている。中でも、ここ数年、かなりしつこく指摘してきたのが、理科室の薬品類の管理状況である。薬品類、特に、鍵をかけての保管が義務付けられている硫酸や塩酸、水銀など毒劇物に相当する事故の発生危険度が高い薬品は、「精査」の対象である。
 塩酸や硫酸などは使用時ごとに分量を「薬品受払簿(うけはらいぼ)」という薬品の管理簿に記載することになっている。実査の際には、記載された重量と、実際の重量を量ってチェックする。私が初めて学校監査の実査で理科室をチェックした際は、この記載量と実重量が違っているケースが多かった。また、学校ごとに記載フォーマットが違うため、適正に管理している学校を手本に管理方法の統一化をお願いしてきた。この点については近年随分と改善された。学校の場合は、転売の可能性は少ないが、児童生徒の興味本位の持ち出しなどによる事故が懸念される。文部科学省も「学校における毒物及び劇物の適正な管理について(平成12年1月11日)」を各教育委員会に通知し、管理の適正化を喚起している。薬品以外に、包丁やはさみ、錐(きり)など、凶器となる可能性のある教材についても、管理状況などを含めて「精査」対象としている。

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