2017.04.25 政策研究
【フォーカス!】受動喫煙防止対策
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
東京五輪大丈夫? 安倍首相は傍観中
受動喫煙を防止する健康増進法の改正にめどが立っていない。2020年の東京五輪までに、他の五輪開催国並みの水準を求める厚生労働省と、自民党所属の衆参両院議員約280人が参加する「たばこ議員連盟」とが対立しているからだ。
当初は3月の改正案提出を目指していたが、政府案を承認する手続きに必要な自民党の部会が開けない情勢で、国会会期末までの成立も危ぶまれる事態になっている。五輪となればリーダーシップを発揮する安倍晋三首相も「議論が収束する中で判断したい。私の判断を待たずに収束していただければいい」と傍観中だ。
小規模がネック
厚労省は3月1日、「受動喫煙防止対策の強化について」とする基本的な考え方案を公表している。この中では厳しい順に、①小中高、医療施設は敷地内禁止、②大学、運動施設、官公庁は喫煙専用施設の設置も認めない屋内禁止、③劇場などサービス業施設、事務所、客室を除くホテルや旅館、飲食店は喫煙専用室設置を認める形での原則屋内禁止―などとなっている。
禁止された場所で喫煙する人に対しては、施設管理者が制止、悪質な場合には自治体職員が指導や中止命令を出し、違反者に30万円以下の過料を科すイメージ。2019年のラグビーワールドカップ日本大会までの施行を目指す。
これに対し自民党の議員連盟が特に特に難色を示すのが、居酒屋や焼き鳥店、食堂、ラーメン店など小規模な飲食店の扱いだ。喫煙専用室を設けるほど余裕がないことから、事実上、禁煙となる。そうなれば、お客が来なくなり経営に悪影響がある、との考えが支配的だ。
このため対案として議員連盟は、飲食店に禁煙、分煙、喫煙を選択できるようにする案を厚労省に逆提案している。もし厚労省案が国会提出できなければ、議員立法でこういった案が国会提出される可能性もある。
1万5000人が被害?
そもそも厚労省が受動喫煙対策に力を入れるのは、日本の対策が世界最低レベルにあるからだ。世界保健機関(WHO)の調査結果では、屋内全面禁煙を義務付ける法律がなく、対策は世界最低レベルの分類にあるという。
さらに、日本が批准している「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」でも、受動喫煙防止対策を求め、屋内の職場と公共の場所については全面禁煙を要求している。
また、現在の日本の喫煙率は2割未満。少なくとも年間1万5000人(交通事故死亡者数の4倍)が、受動喫煙を受けなければ、肺がんや虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)で死亡せずに済んだとする推計も出している。
飲食店、遊技場、職場で受動喫煙に被害に遭うケースが多く、厚労省は努力義務によるこれまでの対策では不十分と指摘。安倍 首相も1月の施政方針演説では、五輪を機会に受動喫煙対策の徹底を求めていた。
実効性に疑問も
ただ、厚労省の対策が効果を上げるかどうかは見極めが必要だ。例えば、神奈川県は2010年度に全国初の受動喫煙防止条例を導入している。学校や病院に禁煙、飲食店や宿泊施設に禁煙か分煙を義務付けている。違反は年間1000件前後が確認されているとされるが、罰則が適用されたケースはないという。
行政側の調査の手間を考えれば、健康増進法も同様に禁止はしたとしても、飲食店の自主的な取り組みに負う部分が多く、実効性には疑問が残るということだ。
もう一つ、不可解なのが政府と自民党の対応だ。犯罪を計画の段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案は3月21日に国会に提出され、審議が始まっている。自民党は強行採決も辞さない構えでいる。
その理由には、1強状態を誇る安倍首相が「国際組織犯罪防止条約を締結できなければ、東京五輪を開催できないと言っても過言ではない」と強調して、五輪のためにと意欲を燃やしているからだ。自民党も当然、首相の意向を忖度する。
その一方で、受動喫煙については及び腰だ。五輪のためと言いながらも、行動が大きく違う。二重基準なのか、それともこちらには興味がないのか。首相の言動次第といった状況になっている。