2017.03.27 議会運営
第52回 100条調査権について
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所所長 廣瀬和彦
100条調査権について
東京都議会で築地市場の豊洲移転問題に絡み、100条調査特別委員会が全会一致で可決・設置され今後調査が進められる予定であるが、100条調査権とはどのようなものなのか。
100条調査権とは、地方自治法100条に根拠を有する議会の調査権をいい、普通地方公共団体の事務に関し議会が調査を行うことができる権限をいう。
【地方自治法100条】
① 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(自治事務にあつては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除き、法定受託事務にあつては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により議会の調査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。次項において同じ。)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
100条調査権は、議会が有する条例制定権や予算議決権等を有効・適切に行使するために認められた補助権能説に基づく法的性質を有する調査権である。
そして現在問題となっている東京都議会における築地市場の豊洲移転問題に絡む真相究明のために設置された100条調査特別委員会であるが、この問題を引き起こした責任者が誰であるか、すなわち犯人探しを行うことが主目的であるかの印象を与える。
しかし、100条調査権の本来の目的は、地方公共団体で起こった不祥事件等の責任者を探すことではない。地方公共団体において起こった不祥事件等に対し、当該不祥事件等が起こるに当たっての原因として当該団体の組織や人事管理に問題がなかったのか、不祥事件等が起こった背景はどのようなものであるのか、事務の執行が適正に行われていたか、そして今後どのようにすればこのような不祥事件等が起こらないような体制を築くことができるのか、つまり当該団体として当該事件等の再発防止をするにはどうすればよいのか等を調査することを目的としている。
さて、100条調査権を行使する上での留意すべき点が大きく2点ある。
まず、100条調査権の範囲と限界である。
100条調査権は、地方自治法100条1項に規定のとおり原則として当該普通地方公共団体の事務に関するものであって、自治事務も法定受託事務も調査の対象となる。
しかし、100条調査権といえども調査範囲には5つの限界がある。
すなわち、①目的上の制約による限界、②司法権との関係による限界、③検察権との関係による限界、④執行機関との関係による限界、⑤基本的人権との関係による限界である。
①目的上の制約による限界とは、100条調査権が地方公共団体の事務に関し議会が条例の制定改廃、予算審議等の諸権能を行使するために補助的に与えられた調査権能であることから、当該目的を達成するために必要な範囲に調査が限られることである。
②司法権との関係による限界とは、議会が行う100条調査により裁判官が裁判を行うに当たって重大な影響を及ぼすような調査をすることができないことであり、特に裁判内容についてその内容の適否を判断するような調査は、判決確定の前後を問わず許されない。
③検察権との関係による限界とは、検察が行う起訴、不起訴に関する事項について圧力をかけるような調査であったり、検察が行う捜査の内容に重大な影響を及ぼすような調査はできないことである。
④執行機関との関係による限界とは、執行機関に裁量権が委ねられている事項については裁量権の逸脱濫用が認められない限り、100条調査権の対象とならないことである。
⑤基本的人権との関係による限界とは、憲法で保障されている個人の思想や信条、信教に係る領域について100条調査権の対象とならないことである。また、個人の秘密やプライバシーに関する事項の暴露のための調査も、100条調査の対象となり得ない。
次に、証人尋問においての留意点がある。
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