2017.03.27 政策研究
【フォーカス!】民泊
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
民泊法案、問われる実効性 地域でベストな方策探れ
外国人旅行者らにマンションンの空き部屋などを宿泊施設として提供する「民泊」が広まっている。ただ、周りの居住者が知らないうちに営業して、騒音やゴミ出しなどでトラブルが発生したり、無許可で営業したりするケースが多く、民泊の取り扱いを定めたルールづくりが急務になっている。
この状況を改善するため、政府は、3月10日、民泊の営業日数や届け出制などを定めた住宅宿泊事業法案を今国会に提出した。公布から1年以内の施行を目指している。
上限は180日
まず、法案の内容を確認しておこう。住宅宿泊事業を営もうとする者は、都道府県など自治体への届け出が必要となる。届け出住宅ごとに国土交通省令・厚生労働省令で定める「標識」を掲げることや、宿泊者名簿の作成を義務付けた。無届けには20万円以下の過料もある。
この新法施行後も、届け出をせずに営業すれば「無許可」とみなされ、旅館業法違反に問われることになる。国会に提出されている旅館業法改正案では、無許可営業の罰金の上限は現行の3万円から100万円に引き上げられている。
民泊法案ではさらに知事らに定期報告を求め、問題があれば業務停止命令、廃止命令なども出せる。
営業日数は年180日以内と限定し、騒音の発生など事業による生活環境の悪化を防止する必要があるときは、地方自治体(都道府県、東京23区、保健所設置市)は、条例でその期間を短縮することができるとした。
180日を上限としたのは「都市計画上の住居専用地域でも営業ができるのは、あくまで人の本拠として使用されている家屋、あるいは賃貸借の部屋が空いている期間を貸し出しているからという整理にしている。つまり、住宅が主であることを示すため年のうち半分までとしている」と観光庁は説明する。
さらに「それ以上の日数の営業が望むなら、業として簡易宿所の許可を取ればいい」としている。ただ簡易宿所は、住宅地では原則として営業できず、耐火基準などの規制も厳しい。このため、これまでは無許可で民泊を行うケースが横行していた。
民泊法案ではこのほか、家主が不在型の住宅宿泊事業に使う住宅の管理を受託する事業者を「住宅宿泊管理業」と定義し、国土交通省への登録を義務付けた。民泊仲介サイトなどは「住宅宿泊仲介業」と位置付け、観光庁への登録を義務付ける。
ネットで管理
だが、本当に宿泊日数を制限できるのか。その仕組みづくりが必要となる。民泊は、東京や京都、大阪といった訪日客の多いゴールデンルートを中心に広まっている。これらの地域はホテルや旅館の稼働率が高く、2020年に4000万人の訪日客を受け入れるためには、宿泊先の確保が急務となっており、民泊の導入には一定の理解が得られるだろう。
ただ、厚生労働省が民泊仲介サイトで紹介されていた約1万5000物件を調査した結果では、少なくとも約30%に当たる約4600件が無許可営業だった。残り約50%は物件を特定できず許可の有無が確認できない状況で、営業許可を受けているのはわずか約17%にとどまっている。現段階では民泊の実態は不透明なだけに不安も根強い。
新制度によって事業者を届け出制にすることで「行政側がどこで営業をしているのかが把握できる。さらに標識を付けていない住宅で宿泊者が目立つようなケースでは、近隣の住民からの通報も期待できる」と観光庁は話す。
さらに、宿泊実態の把握にはインターネットを使ったシステムを構築する方針だ。具体的には、届け出た宿泊事業者には部屋ごとに宿泊者数や日数などの報告を求める。仲介サイトの事業者にも同様、ネットを通じて報告を求める。この二つを突き合わせることで、上限の180日の営業日数を守っているかどうかチェックする考えだ。
また「エアビーアンドビー」などの仲介サイトに対しては、営業日数の上限に達した事業者については、ウェッブサイト上では見えないようにする「非表示」扱いにすることで募集を止めるよう要望する。
観光庁は「システムの構築には事業者らから使用料を得ることで賄いたい。これらの対策によって、日数の上限を守らせることはある程度、てきるのではにか」としている。
対策チーム
2016年に日本を訪れた外国人旅行者は2404万人で、前年に比べて22%増えていた。にもかかわらず、外国人の延べ宿泊者数の伸び率は8%にとどまっている。日本人を含めるとマイナス2%になる。客室稼働率を見ても、シティホテルは78.7%と前年よりも0.5ポイント下がった。ビジネスホテルは0.2ポイント上がっただけだ。
観光庁は「この差は施設に宿泊しないクルーズ船の利用に加えて、統計に表れない民泊の活用が増えているのが要因ではないか」と分析する。
ホテルや旅館の稼働率は自治体によって大きく異なっており、民泊の宿泊日数をどう扱うのかは自治体が判断するのが順当だろう。基本的には、中核市以上の比較的規模の大きな自治体なら独自に条例で上限を設定することができる。
例えば、京都市は2020年の外国人宿泊客は440万~630万人と予想、それまでに6000室以上を増やす必要があると試算する。その解決策としてやはり民泊の活用を挙げる。伝統的な軸組構法で建てられた木造家屋「京町家」を宿泊施設として提供してきた実績から、京町家の保存策としての活用も期待している。
このため市では「民泊」対策プロジェクトチームを設置し、民泊通報・相談窓口を設置したほか、無許可民泊に対する営業停止の指導を強化している。
広島市なども同様に規制の強化を考えている。これら観光地を抱え、調査を担当できる職員のいる自治体は強化に動くことになるだろう。一方、長野県軽井沢町のように、町内全域で民泊を認めないといった自治体も出てきた。
民泊の扱いについては、行政や議会だけでなく観光業界など経済界、さらに住民の代表らを入れた形で協議会をつくり、地域で話し合ってベストな方策を探るといった丁寧な対応が不可欠なことは言うまでもない。