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2017.02.27 議員活動

廃止すべき日額報酬のような「費用弁償」

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東京大学名誉教授 大森彌

 小池百合子氏が「都政大改革」を選挙公約に掲げて東京都知事に当選したこともあり、何かと都議会のあり方がマスコミに注目されている。夏には都議選もある。都議会の改革問題の中には議員報酬や費用弁償の見直しがある。以下では費用弁償について指摘したい。結論からいえば、都議会は、日当のように出している定額の費用弁償は速やかに廃止すべきであるといいたい。
 大阪府議会は、本会議や委員会への出席など公務で府域内等を移動した際の「費用弁償」を、2008(平成20)年8月から廃止している。費用弁償は、職務の執行に要した経費を補うものとされて、交通費や日額報酬などが含まれていた。大阪府議会の場合は、各選挙区から府庁までの距離に合わせて、7,000円、9,000円、1万2,000円、1万5,000円の4段階で府議に支給され、年間で総額約4,000万円の支出となっていた。当時、橋下徹知事は府の財政再建策として職員の給料大幅カットを打ち出していた。府議会も対応を迫られていた。費用弁償については、報酬との関係や金額の算定根拠が曖昧で住民からの理解が得られないとして全国的に廃止の機運が高まっていた。すでに、大阪市議会では、一律1万円が支払われていた費用弁償を議会改革の一環として2006(平成18)年度から廃止していた。
 大阪府議会も廃止に踏み切った。「大阪府議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例」を見ると、「(費用弁償) 第5条 府議会議員が公務のため府の区域外の地域(府に隣接する府県の区域内において規程で定める地域を除く。)に旅行したときは、費用弁償を支給する」とあり、これ以外の費用弁償は支給していない。
 「東京都議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例」はどうか。議員報酬の額(月額)は、議長127.1万円、副議長114.7万円、委員長105.9万円、副委員長104万円、議員102.2万円であり、この月額を基礎として一定額の期末手当が支給されている。また、職務のために出張したときは順路により費用弁償がある。しかも職務のために都の区域内又は都の区域と隣接する県の区域内に出張したときは、費用弁償として1日につき1.2万円が支給される。
 それだけではない。都議会議員が招集に応じて会議、委員会(理事会を含む)又は議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場に出席したときは、費用弁償として1日につき特別区又は「島部」に住所を有する議員は1万円、それ以外(多摩地区)の議員には1.2万円が支給されている。島しょ部に住所を有する議員には、1万円の費用弁償のほか議事堂(東京都議会)までの往復に要する船賃若しくは航空賃又は宿泊料の額を費用弁償として支給することができることになっている。
 地方自治法203条2項は「普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる」としている。問題は、その解釈である。費用弁償の方法は、職務で費用を要した場合、そのつど実費を計算してこれを支給することもできるし、あらかじめ費用弁償の支給事由を定め、それに該当するときには、標準的な実費である一定の額を支給することとすることもできる扱いになっている。この場合、いかなる事由を支給事由として定めるか、またその額をいくらとするかについては、当該議会の裁量的判断に委ねられていると考えられている。
 議員が会議に出席するたびに、どうして「費用弁償」という金が出るのか。「職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる」という場合の費用は、別途、報酬が支払われているのであるから、職務遂行に必要な経費の実費であると解釈され、その意味で出張旅費の支給はうなずける。しかし、「1日につき1.2万円が支給される」のはおかしい。その額は交通費の実費分とすべきである。
 さらに問題は、いわゆる応召旅費(招集に応じ会議等に出席するために要する費用の弁償)の支給である。応召旅費の支給は、一般には「主に交通費の実費負担に対する支給」と解されているが、定額支給を認めているため、その実態が、交通費なのか月額報酬には含まれない1回ごとの実働への報酬なのかはっきりしないのである。住民から見れば、月々の報酬は、会議等に出席するという最も基本的な議員としての職務活動に対して支払われているのに、なぜ、これとは別に日当のようなものが出るのか釈然としない。応召旅費を出すなら、これも交通費の実費分とすべきである。
 民間企業の場合は通常、交通費は最短距離の実費支給であるから、支給額も当然、住んでいる場所で違う。どうして一律の定額支給なのか。その理由は1回ごとの事後精算だと事務が煩瑣(はんさ)になりすぎるからということらしい。しかし、費用弁償の額を実際の要する経費との関係で精査して「徒歩の場合は支給しない。自動車その他による場合は○○円とする」などのように、より具体的な実態に合わせた規定にすることはできるし、また、「議員のほとんどが近隣に住み、議会への出席にはほとんど経費がかからない」ことなどが客観的に認められるような場合、すなわち、本会議等への出席が費用弁償するにも至らない旅行であると認定できる場合には「支給しない」と規定することも可能なはずである。
 費用弁償と称して、交通費相当ではなく1日1万円一律に支給している、そんな制度がいまだに存在するのは理解に苦しむ。会議への出席のため移動中に何かあった場合の保障という意味で費用弁償は必要である、という意見があるのだそうだ。サラリーマンは毎日通勤し、通勤手当は支給されるが、その途中で何かあった場合の保障と称して日当らしきものをもらっているだろうか。
 都議会では、費用弁償の減額・廃止については何度か議題に挙がったものの、実際の見直しは見送られてきたという。神奈川県議会は、2007年4月に実費制を導入している(「第3条 議長、副議長及び議員が、議会の招集に応じ、又は委員会若しくは議長若しくは議長があらかじめ指定する者の招請に応じて会議に出席したときは、費用弁償として鉄道賃及び車賃を支給する」)。千葉県議会も「議員が公務のため旅行したときは、その費用弁償として、旅費を支給する」としている。多くの政令市でも同様である。都議会は、こうした動向に背を向けている。都議会議員は二元的代表制を根拠にして知事(執行機関)への監視の重要性を強調するが、都民の理解を得られない「費用弁償」を既得権益としているようでは、代表機関の名が泣くというものではなかろうか。なお、東京圏では埼玉県議会も応召旅費を支給している。「埼玉県議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例」によれば、「県議会議員が、県議会の招集に応じ旅行したとき、又は閉会中に常任委員会、議会運営委員会若しくは特別委員会の招集に応じ旅行したときは、その住所地から招集地までの距離に従い、次の区分により定額で、その費用を弁償する」(4条2項)とし、招集地居住者及び同地外で10キロメートル未満は1日について6,000円、50キロメートル未満は1日について8,100円、50キロメートル以上は1日について1万200円としている。この算定根拠も定かでない。埼玉県議会も、このような費用弁償を見直し、交通費の実費分とする改革を行うべきである。

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