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2025.03.10 まちづくり・地域づくり

第3回 防疫は他人事ではない

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前大田原市長 津久井富雄

防疫は他人事ではない

 畜産業に携わる者にとって、家畜を感染症から守ることは極めて重要な課題である。感染症は家畜の命を脅かすだけでなく、地域経済にも大きな影響を与える。狂牛病(BSE)や口蹄疫(こうていえき)はその代表的な例であり、特に狂牛病は牛の脳や脊髄に異常をもたらし、神経系に致命的な影響を与える病気だ。人間に感染するとクロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす可能性があったが、危険部位である脳や脊髄を摂取しなければ感染リスクは大幅に低減される。現在は、危険部位の除去や検査が厳格に行われている。
 一方、口蹄疫はウイルスによって引き起こされる伝染病で、偶蹄類(牛、豚、羊、ヤギなど)に感染しやすく、空気や物体、さらには人間を介して広がる。そのため、大規模な流行を引き起こす危険性が高い。
 私が大田原市長に就任した2010年4月、宮崎県で口蹄疫の流行が始まった。この感染は、宮崎県南部にとどまり、全国的な拡大は免れた。それでも、29万7,808頭の家畜が殺処分され、畜産業には1,400億円、関連産業には950億円の損失が生じた。
 防疫の基本は、迅速かつ的確な初動対応によって感染拡大を防ぐことにある。感染が確認されると、発生地域での家畜の移動制限や殺処分が実施され、これにかかる費用の一部又は全部を国が負担する。口蹄疫流行時、宮崎県の家畜保健衛生所は報告を10日間遅らせたとされており、当時の防疫員の人数が不足していたため、初期対応が遅れたことで被害が拡大した。国は1,379戸の農家に対して528億円を補償し、その内訳は感染農家に288億円、ワクチン接種農家に240億円が支給された。その原資は税金である。
 家畜を飼育する者にとって、消費者の満足を得ることが家畜を育てる目的であり、本来の目的とは異なる形で殺処分されることは、補償があったとしても喪失感を拭うことはできない。どれほど注意を払っても、感染症がいつ発症するかを予測するのは難しい。口蹄疫に限らず、鳥インフルエンザや豚熱(豚コレラ)も接触や飛沫(ひまつ)で広がる。ワクチンの防御効果は約80%にとどまるため、日頃から畜舎や器具の清掃・消毒、農場への人や車両の出入りの制限、入場時の洗浄や手洗い、飼養家畜の健康観察を徹底するといった防疫体制を構築することが不可欠である。

防疫が我が事となる

 2011年3月11日の東日本大地震で崩壊した市庁舎は、7年間の財政運営の圧縮、事業の凍結の効果で財政調整基金も7億円から26億円まで積み上がり、2019年1月4日から新庁舎での業務が開始となった。この年の12月初旬、中国の武漢市で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1例目の感染者が報告される。新庁舎が完成した喜びもつかの間であった。
 新型コロナウイルス感染症は、翌年2月にはクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗員・乗客に感染し、数か月ほどの間にパンデミックといわれる世界的な流行となった。感染拡大への課題としては、災害対応体制の早期構築と指揮系統の明確化、情報集約とデータベースの一元化、感染管理の徹底などが挙げられる。しかし、新たな感染症であってもその初期対応に違いはない。畜産業を生業(なりわい)とし、感染症への対応を心がけていたことが市政運営に役立った。ワクチンが開発され、接種できるようになるまで、防疫の基本に徹した。
 感染症対策の参考としたのは、後藤新平(1857-1929)の対策であった。日本が朝鮮半島で清と戦った日清戦争(1894-1895)が終わった頃、大陸ではコレラがまん延していた。罹患(りかん)した兵士が日本各地に帰郷しては、大パンデミックが起こる。帰還兵の検疫を担当したのが後藤新平であった。1877年、西南戦争でコレラ患者の治療や看護を経験し、過酷な状況と検疫を熟知した後藤は、広島県や山口県、大阪府の三つの離島に400棟もの検疫施設をわずか2か月でつくり、船舶687隻、23万2,000人余りを検疫し、国内への発生を防止している。

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