2024.12.25 政策研究
第57回 組織性(その3):資源
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
はじめに
自治体という組織は、様々な資源から構成されていると見ることができる。自治体を、社団や組合やNPOのように、人間の集まった組織として見るならば、人的資源が組織の元手となる。あるいは、自治体を、財団や営利会社のように、資金の集まった組織として見るならば、資金や経済的価値のある現物が組織の元手となる。組織の元手を「資本」と呼ぶならば、人的資本又は経済資本が重要である。
もっとも、人間が人間だけで、あるいは、資金が資金だけで、組織を運営できるわけではない。通常は、こうした元手(資本)を起点にして、様々な資源を調達し、資源を加工変換し、資源を手段にして環境に働きかける。資源の変態(メタモルフォーゼ)の循環過程を通じて、組織は運営される。その意味で、元手や資本が何であるかは、ある意味で説明の便宜や、組織の創設の縁起由来書にすぎず、実際には、資源の組み合わせが重要といえよう。そこで、自治体という組織について、自治資源の観点から、資源の組み合わせと循環を考えてみよう。
自治体の三要素
しばしば、国家の三要素として、主権、国土、国民が挙げられることがある。自治体は国家の相似形のミニチュア版として、自治体にも三要素があるといわれる。すなわち、自治権、区域、住民である。主権に対応するのが自治権、国土に対応するのが区域、国民に対応するのが住民、というわけである。
もっとも、自治体は国家のミニチュア版という想定が妥当ではない場面もあるだろう。例えば、国民は、当該国家の国土を離れても、基本的には国民であり続けるが、住民の場合には、当該自治体の区域から転居(引っ越し)するだけで、住民ではなくなる。とはいえ、通勤・通学・旅行などによって、当該自治体の区域を離れても、住民でなくなるわけではないので、国家との相似的な面もないわけではない。
また、自治体の三要素の中で、自治権の代わりに、法人格を挙げることもある。しかし、法人格が必要なのは、経済取引や契約締結の場面であり、支配権を行使するときには必ずしも法人格は必要ない。その意味で、自治権の方がよいかもしれない。もっとも、自治権そのものでは、経済取引や契約締結はできない。主権があれば、国家は自らに法人格を付与することができるので、主権が国家の三要素となるのは、不思議ではないかもしれない。他方、自治権そのものでは法人格をつくることができないのが、普通の見方である。そこで、自治権を国家に由来しない固有権として捉え、あたかも個人に国家とは無関係に人権があるように、自治体にも国家と無関係に自治権(法人格)があり、それを国家が人権・自治権(法人格)として追認しただけならば、自治権のみで本来的に経済取引や契約締結を可能とすることもあり得よう。
自治体の三要素を、資源と見ることもできよう。自治権は法的資源であり、住民は人的資源である。区域は土地資源ということになろう。ただし、土地資源は、通常は財産的資源(財産権)の一種であり、区域とは別であると考えるのが、自然かもしれない。土地資源は、地権者が所有し、使用・収益・処分を行うことができる。自治体は、土地を所有していないときには、直ちに区域に対して、使用・収益・処分を行うわけではない。しかし、自治権という権力を行使する対象範囲を、区域が画定している。自治体は、区域の範囲内で自治権を行使する。財産権の比喩でいえば、自治権をもとに区域に何らかの立法・行政活動という作用を及ぼし、区域から税収や環境保全という収益を上げ、境界変更や廃置分合という区域変更の処分を行うのであろう。このように考えれば、区域もそれ自体で、何らかの資源と見ることができよう。