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2016.12.26 議会改革

第7回 地方自治の二層制の変化と住民自治(下)――議会改革を多層な自治の住民統制に活かす――

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

今回の論点:ポスト平成の大合併における住民自治を考えよう

 地方自治の特徴の1つは、市町村と都道府県の二層制であるが、今日地方政治の重要な舞台である地方自治の二層制が大きく変化している。
 1つの方向は、二層制を前提とした変化である。この変化として、具体的にはすでに実践された平成の大合併がある。また、いまだ実現してはいないが、また多くの反対もあるが、道州制もある。これは、二層制という意味では地方自治制度を維持しつつも、都道府県を廃止して道州を設置するものである。もちろん、都道府県を存続させる議論も成り立つが、行政改革の文脈でも議論されるために、都道府県の廃止が前提となって議論は進んでいる。
 地方自治の二層制の変化のもう1つの方向は、二層制自体を変化させるものである。「都」を大阪府に導入しようという構想もその1つである。また、指定都市を道府県から独立させ一層制を採用する、つまり特別自治市の構想もある。周知のことではあるが、市と府県が一体となった「都」制度は、すでに東京都として設置され今日に至っている。また、特別自治市構想のような道府県から独立した一層制は、すでに地方自治法制定時にはその中に大都市制度として存在していた。その後、1つも設置されず、指定都市制度に変更されている。
 今回は二層制の変化の動向を確認し、課題を探ることにしよう。
① 地方政治の舞台の変容に大きな影響を与えた平成の大合併の動向を確認する。
② 自治体内分権、自治体間連携・補完といった平成の大合併後の動向について住民自治を進める視点から考える。〔以上前回〕
③ 道州制、都構想、特別自治市構想といった「新たな自治制度」の構想を考える(都はすでに東京都がある)。〔以下今回〕
④ 平成の大合併後の住民代表を「公選職」という視点から考える。

3 もう一歩:道州制の動向と二層制の改革

 ここまで市町村合併の動向と課題を確認してきた。それらは実際に実施された地方自治の二層制の変容であるといえる。さらに、この二層制をめぐっては(いまだ実現していないが)、二層制自体を存続させる改革(道州制)と二層制自体の改革(都構想と特別自治市構想)とが浮上している。

(1)道州制―空想から現実へ?―
 道州制は、これまで様々に議論され提案が行われており、今日構想段階から実現に向けての動きがある。一般に、道州の設置とともに都道府県の廃止が構想されているために、道州制は「新たな二層制」と考えてよい。都道府県の空洞化(神奈川県のように指定都市等の存在による)、分権のさらなる推進のための受け皿整備、都道府県を超えた広域行政の必要性(環境・経済等)、行政改革(議員、首長・職員の削減、効率化)などが道州制推進の理由に挙げられている。
 日本国憲法との関係では、連邦制は採用できないが(単一国家)、道州制は可能であり、都道府県を廃止とする議論が一般的である。なお、道州を地方公共団体(憲法93)として規定すれば当然、議会も首長も直接住民から選出される。
 道州制は、想定する論者により様々である。道州制には、そもそもいくつかの変種がある(西尾 2007:152-157)。
 ① 連邦制国家を構成する単位としての州、邦、共和国等を想定している構想。
 ② 国の直下に位置する、国の第一級地方総合出先機関を想定している構想(敗戦直前に設置された地方総監府)。
 ③ 国の第一級地方総合出先機関としての性格と広域自治体としての性格を併せ持つ融合団体を想定している構想(第4次地方制度調査会(以下「地制調」という)による地方制案。自民党の道州制議連などで議論されているもの。機関委任事務的なものの復活の可能性。道州の長の官選の議論と連動する場合もある)。
 ④ 都道府県よりも原則として広域の、都道府県と併置する新しいもう一層の広域自治体を想定している構想(フランスのレジオンやイタリアのレジオーネなど。日本では提唱されていない)。
 ⑤ 都道府県に代わる新しい広域自治体を想定している構想(第28次地制調答申)。
 道州制は、機関委任事務制度の復活をさせないこと、連邦国家を支持する歴史的社会的基盤はないことを考慮し、道州は「都道府県に代わる新しい広域自治体」としたのが、第28次地制調答申である(キーワード参照)。この答申では、区割り案も提示され現実味を帯びてきた。
 道州制をめぐって、1つの法律で移行可能か(住民自治の原則からの逸脱)、地域民主主義の保障(ますます遠くなる。それへの対応は可能か)、集権制の復活の可能性(単一国家であれば、「機関委任事務」のような手法が復活)、どこが活性化するか(地域的偏り)、など議論すべき論点は多い。

☆キーワード☆
【最近の道州制推進の動向】
 すでに、第27次地制調では、都道府県の合併の手続を一般法に挿入することとしていた(自治法6の2)(1)。それを進めて、第28次地制調は、道州制をめぐって答申している。道州制の導入、二層制(都道府県を合わせた区域)、同時進行(協議により異なる時期も可能)、都道府県の事務は大幅に市町村に移譲(道州は広域事務に徹する)、執行機関として長を置く(住民が直接選挙。多選は禁止)、道州の税財政制度は遍在度の低い税等を中心に構築する)、といった内容である。その上で、全国を9から13に分割するという区割り案も示され現実味を帯びている(東京都、あるいは特別区を別途考慮する案もある)。
 また、政府の道州制ビジョン懇談会は、2018年までに道州制に移行すべきだとする中間報告をまとめた(2008年)。理念や目的などを定めた道州制基本法(仮称)を2011年の通常国会に提出するよう政府に提起し、導入への道筋を示したといえるが、その後民主党政権により、頓挫している。
 知事・指定都市市長会による推進組織、2013年国会への道州制法案提出(みんなの党・日本維新の会)、2014年には自公案(道州制基本法)の提出の模索はあったが、全国町村会などの反対が多く未提出となっている。

 道州制では、道州は従来の国の事務とともに都道府県の事務も担う。また、市町村は都道府県の事務も担う。当然、市町村合併を促進することになる。第30次地制調答申の自治体間連携・補完とはまったく異なるベクトルである。また、道州制は都道府県を廃止する。小規模自治体の事務の都道府県による補完とは矛盾している。
 自治体間連携・補完を強調した第30次地制調答申は、道州制にまったく触れていないわけではない。大都市制度改革の延長に道州制があることを示唆している。つまり、大都市制度改革は「明治以来の区域を継承している都道府県についての議論、ひいては広域自治体のあり方の議論にもつながっていく」という文言である。また、第30次地制調第4回総会(2013年)では、道州制推進の議論が国会議員から積極的に行われていた。とはいえ、都道府県による市町村の補完を強調することで、答申全体は道州制とは一線を画している。

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