2016.04.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その10)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで9回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回までに、「第Ⅲ章(1) 地方議会の議員に求められる役割」の箇所まで検討を終えた。今回も引き続き『報告書』に沿って論じていこう。第Ⅳ章は、「多様な層の幅広い住民が議員として地方議会に参画するための方策」という非常に重要なテーマである
現状の記述
「第1節」は「地方議会の議員の構成の多様性の確保」を論じている。端的にいって、「(1)現状の地方議会の議員の構成」は、少なくとも住民構成とは乖離(かいり)している。第1に、男女比でいえば、住民の約半数が女性であるにもかかわらず、議員の女性比率は非常に低い。第2に、年齢別の構成で見れば、60歳以上の割合が著しく高い。少なくとも客観的には乖離していることは指摘できる。
もっとも、こうした乖離をいかなる尺度で見るべきなのかは、自明のことではない。『報告書』では、この他に「職能」についても言及されているが、深くは論じられてはいない。しかし、それ以外の尺度に何があり得るか、あるいは、尺度として性別・年齢別・職能別でよいのか、という問題は根本的に残っている。主観的な尺度の選択による客観的記述は、決して中立的な記述ではない。いわば、いかなる尺度を採択するか、ということ自体が、既に何を問題とするかということを、あらかじめ価値判断していることでもある。こうした尺度に合意する限りでは、性別・年齢別・職能別の偏りは問題視されているといえよう。