2016.03.10 政策研究
【フォーカス!】余力を残す
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
余力を残す
東日本大震災から5年になる。その前に、宮城県気仙沼市の街を歩いた。JR気仙沼駅から港の方に向かうと、突然、建物が失われ視界が広がった。津波と火災で深刻な被害を受けた地域だ。少しの標高の差で被害の有無がくっきり分かれていた。津波の持つ怖さを今も教えてくれる風景である。
港では堤防を高くする工事や、周辺では土地のかさ上げが始まっていた。プレハブづくりの商店街も活況だ。津波被害を受けた地域の本格的な復興はこれからだ。駅の近くでは災害公営住宅も出来上がりつつあった。
リアス式海岸が続く唐桑半島には、高台への集団移転が終わった地区もある。一方で、小さな湾の奥にある平地を守るため海が全く見えない巨大な防潮堤ができた所もある。津波の恐怖がそうさせたのだろう。
インフラや住宅の再建は、公共事業が中心となるだけに進みはしているが、生業、生活の再建はこれからだ。ただ、被災した自治体では、5年間で人口が2割、3割も減ったところもある。「出る元気のある人はみんな出て行った」と表現する人もいるほどだ。
結果として、高齢者が残され、高齢化率は急速に高まっている。震災当初は「地域包括ケア先進地にする」「社会福祉のモデル地区に」と、変革をプラスに捉えようとしていたが、多くの地域では、やはり高齢者の孤立に悩んでいる。これは10年、20年先の日本全土の風景である。
1995年に起きた阪神大震災の教訓から、この国は震災への対応策を向上させてきた。まず、消防、警察、自衛隊による初動態勢を整えた。生活再建、孤独死対策なども充実が図られてきた。
東日本大震災を受けて、津波の被害にも着目し「ハード施設だけでは難しい。ソフトの対策も重視すべきだ」ということを再確認し、全国で逃げる仕組みづくりが続いている。
次には南海トラフ巨大地震、首都直下地震がいつ起きるか分からない。教訓を生かせば、被害は想定よりも大幅に軽減できることは確実だ。だが心配なのは、「国難」とも称され、被害が東日本大震災よりもさらに大きくなる大地震の後、手厚い支援ができるだけの余力がこの国にあるかだ。
国と地方を合わせた長期債務の残高は、東日本大震災の前、2010年度末は862兆円だった。これに対し2015年度末には1035兆円に達する見通しだ。金融緩和、ゼロ金利政策もあって、国債の金利はマイナスになったりしている。だが、いつ、金利が高騰するかは分からない。
この国が借金できる額に限界がある。だから財政再建を進めるというポーズを崩してはない。国内総生産(GDP)の2倍もある借金をすぐに完済する必要はないが、少なくともこれ以上、借金の額を増やさない、コントロールできているということを示す方策が不可欠だ。
それを考えると、南海トラフ巨大地震などが起きたとき、被災者に対する公的な支援、公共事業などにどれだけ予算を割くことができるのか、心配になる。復興庁の幹部に聞くと「その時々の政府と国民が判断する」と述べるにとどまった。
財政は危機的な状況だが、少なくとも東日本大震災と同様な支援ができるように余力は残しておくべきである。これが真の意味で備えることだ。