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2016.03.10 政策研究

台湾で、駅間に架線がないLRTに試乗

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 台湾第2位の都市である高雄市の人口は278万人で、大阪市をいく分上回る。港湾都市であり、台湾随一の工業都市でもある。そんな台湾南部の中核都市に、駅間に架線のないLRT(次世代型路面電車)、高雄捷運環状軽軌の一部が完成し、試乗した。
 高雄捷運環状軽軌は高雄市政府が経営する市電である。このLRTは、2016年中には内陸の籬仔内から、海寄りの哈瑪星間8.7キロメートルの第1期区間が正式に開業する予定である。全部が完成すれば市内を一周し、路線総延長は22.1キロメートルとなる。試運転を続けているのは、このうち籬仔内~凱旋中華の2.2キロメートルの4駅間である。気のせいか、揺れがほとんどなく滑るように走行するのが印象的だった。
 台湾初の路面電車である高雄捷運環状軽軌の最大の“売り”は、電力で走る電車にもかかわらず駅間に架線がないことである。全線にわたって駅間に架線のないLRTが常時走行するのは珍しい。
 ただ、各駅の構内には短い架線が設置してある。同線は急速蓄電システムを導入しており、「キャパシター」と呼ばれる蓄電装置を車両に搭載し、蓄電した電力を電車の動力や車内設備に使用している。電車が駅に停車するたびにパンタグラフを上げて構内の架線に接触させ、30秒以内の停車中に充電する。充電後はパンタグラフを下げて走行する。走行中にブレーキをかけるとモーターが発電するため、その電力も「キャパシター」に貯めている。
 新方式のLRTは、走行空間がすっきりしており、都市景観の向上に貢献している。駅間に電線やそれを支えるポールを敷設しないため、架線工事費を大幅に節減できる。構内以外は架線がないため、強風などでそれに関連したトラブルが起こりにくいのも利点である。
 特徴はほかにもある。従来型の路面電車の場合、自動車やバスが線路に進入したり、道路と平面交差する交差点で信号待ちすることが多く、遅れの原因になっていた。高雄では、ほとんどをLRT専用とし、軌道敷の80%近くに芝などを植えている。路面電車が優先して走行できるように信号を制御する仕組みも取り入れ、定時性を確保している。試乗した際も予定通りの運行だった。
 車両や駅の色彩やデザインにもこだわっている。車両は白地に緑の模様の入ったツートンカラー、車内は白を基調に青味がかったグレーと淡いグリーンの3色で明るい。乗務員の制服は、肩に飾りの付いた緑色のチョッキ、同色のシャツ、ブルーのパンツ、グリーン地に紺とグレーのストライプの入ったネクタイとおしゃれだ。
 地下鉄との乗換駅の前鎮之星駅をまたぐ歩道橋やエレベーターは洗練されたデザインで、駅の壁や柱は、台湾先住民族で最も多いアミ族の衣装に使われる赤、黒、オレンジの色彩に統一といった具合である。
 5両編成のLRTの総定員は250人である。試乗会で受け取ったしおりには、「190台の小型車=4台のバス=250人=1編成軽軌」と記した図が載っていた。これは、250人を運ぶのに車なら190台、バスなら4台必要だが、LRTなら1編成ですむことを示している。それだけ、交通渋滞や大気汚染の減少に役立つというわけである。
 日本では、東芝が同社のリチウムイオン二次電池を採用した蓄電システムを鹿児島市交通局の協力で1000形路面電車に搭載し、架線レス走行試験を2015年に実施している。その際は、架線からの電力供給を停止した状態で鹿児島駅前から往復約10キロメートルを走行した。
 架線から直接充電する場合は電圧の関係で、大型の充電装置が必要だった。走行試験では、補助電源装置に充電器を接続することで充電器を小型にした。これによって、蓄電システムを既存車両の座席の下に設置する道が開けた。
 一時は衰退した路面電車の再興に向けてアジアで技術面の新たな取組が見られるようになったのは頼もしい。

緑の軌道敷を滑るように走るLRT~駅間に架線がないため、車両の屋根や沿線はすっきり~(台湾・高雄市前鎮区で)緑の軌道敷を滑るように走るLRT~駅間に架線がないため、車両の屋根や沿線はすっきり~(台湾・高雄市前鎮区で)

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