2016.02.25 政策研究
【フォーカス!】ごみ屋敷問題は福祉的な視点から
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
ごみ屋敷問題は福祉的な視点から
ごみ屋敷対策の条例について、京都市の例を中心にあらためて対策の効果と課題を考えてみたい。京都市に注目するのは、ごみ屋敷対策の担当部署が、ごみ処理の環境部局ではなく、福祉部局となっているからだ。ごみ堆積を人の問題、つまり病気や高齢化、孤立などの問題と併せて取り組むことで成果を挙げていると言える。
京都市が2015年1月に全面施行した「不良な生活環境解消支援措置条例」には、「ごみ屋敷」という表現はない。担当する職員の間でも「ごみという言葉を決して使わない。物と呼ぶ」ことで意思統一がされている。ごみ屋敷に住む人に対する支援をスムーズにするためのノウハウを一つ一つ積み上げている段階だ。
門川大作市長は施行半年を受けた記者会見で「『ごみ屋敷』を解消するため、人間関係を構築し、本人に寄り添った支援を続けてきた。困り事を優先して支援、自己決定を尊重する。徹底して寄り添っていくことが大事だ。大事にすることで、これまで拒否してきた清掃の同意につながるなど素晴らしい事例が出てきている」と胸を張っている。
対策の現場となる14ある区役所・支所では、地域力推進室(総務とかまちづくりの部署)、福祉事務所の支援課(老人、障害、福祉)、保健センターの健康づくり推進課、消防署などを中心にして対策事務局を設置、訪問調査による実態の把握や対応方針の策定、支援を進めている。
2015年10月末現在でみると、市民から通報などがあったのは197世帯。全件を訪問して状況を把握しようとしたが、さらなる状況把握が必要なものは45世帯残っている。
状況が把握できた152世帯では、各区・支所にある対策会議で対応を協議し、31世帯は、樹木の生い茂りなど「ごみ屋敷とまではいえないもの」と判定された。残り121世帯が「不良な生活環境にある」として、ごみ屋敷と判定された。
このうち清掃の実施など具体的な支援につながったのが70世帯ある。内訳は、①自主的な清掃が37世帯、②行政や関係機関などの協力による清掃が33世帯―となっている。残り51世帯は「要支援者への寄り添い支援を図りながら信頼関係の構築に取り組んでいる」としている。
また11月には右京区の50歳代男性を対象に条例に基づいて行政代執行を実施した。条例の施行後、1年間で区役所と保健福祉局が連携し、支援と指導のため124回訪問し、61回接触した後の結論だ。
市側は「取り組んでみると、ごみ屋敷と判定された121世帯には121通りの理由がある。思っている以上に原因も複雑で、一世帯一世帯違う」と強調する。「例えば、ものが捨てられない人、執着心が強い人、ごみを拾ってこられる人ななどさまざまな状況がある。病気が原因としても、高齢で動けない方とか、障害者や認知症の方などいろいろだ」という。
それでも支援した人からは「物へのこだわりがあり、清掃し始めた当初は精神的にしんどくなったこともあったが。毎週清掃に来てくれて、信頼できるようになり、捨てられる物・捨てられない物を伝えることができるようになった」(70歳代女性)、「みなさんの協力をいただき、生活できるまで部屋を片付けることができた。今後は自分で清掃し、ごみを減らしていく」(60歳代男性)などの声が寄せられているという。
他の自治体は清掃部局が中心となって対応する。となると「ごみが出され、きれいになった後で福祉部局に引き継がれても、そこから人間関係をつくり上げるのは大変だ」と京都市は話す。
愛知県豊田市も2月26日からの市議会に「不良な生活環境を解消するための条例案」を提出、4月の施行を目指している。その中では、要綱で規定する対策会議で現場を確認し、調査が終了した後で市、関係機関、地域などによる福祉的、社会支援を進めるとしている。具体例としてごみ処理、家庭訪問、見守り、生活相談、環境改善の説得を挙げている。
京都市の例を見れば分かるように、これら対策は福祉部局が中心となったチームで進めることでより効果が出てくる。これから条例の策定を考える自治体は、どの部署が中心に対策を進めればより成果が挙がるのか、先進事例を精査して検討してほしい。