2023.04.10 まちづくり・地域づくり
第2回 持続発展可能なまちづくりを実現する「活動人口」①~人口減少時代に注目すべき「活動人口」とその好事例~
静岡市市長公室東京事務所主査 松木喜伯
1 人口減少時代における自治体経営とは
人口減少時代における少子高齢化の進展、生産年齢人口の減少により社会的・経済的な課題が深刻化している中で、持続発展可能なまちづくりは「量」から「質」への視点の転換が求められている。
本稿では、各地域において、“自分たちのまちは、自分たちでつくる”という活動的な人々が増えることが、持続発展可能なまちづくりとなることを提唱する。
(1)自治体同士が人口を奪い合うゼロサムゲームの現状
日本は、2008年をピークに人口減少時代を迎えており、少子高齢化の進展、生産年齢人口の減少により様々な社会的・経済的な課題が深刻化していることはご存じのとおりである。
この状況を打開するため、2014年に政府は、まち・ひと・しごと創生法に基づき「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定している。2060年の1億人程度の人口維持を目標に、東京一極集中の是正、地方移住の推進を掲げた。これをきっかけに各自治体間での競争が始まり、定住人口を増加させるため、どの自治体でも移住施策に力を入れてきた。
一方、このような自治体間での人口誘致政策を促進したとしても、日本全体の人口総数が変化しない中では、各地域による人口の奪い合い、「ゼロサムゲーム」という結果になってしまっている。このようなやり方では、消耗戦となってしまい、持続可能な自治体経営とはいえないのではないだろうか。
自治体の役割は、地方自治法1条の2で「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と記されている。自治体は、住民の福祉の増進、つまり住民の幸福感の増進を図ることが目的とされている。本連載では、減りゆく人口を追い求め消耗していくことなく、住民の福祉のため、持続発展可能なまちづくりをしていくための考え方を紹介する。
(2)「量」から「質」への視点の転換
筆者は「人口減少社会における持続発展可能なまちづくりとは」という問いについて、自治体の資源の一つである人口に着目し、人口を「量」だけではなく「質」で捉えることが必要だと考える。
「量」から「質」への転換とは、そこに住まう人々や関係する人々の数を増やすという、人口を「量」で捉える考え方だけでなく、そのまちに主体的に関わる人々のスキルや知見をまちの資源と捉え、それらをどのように活用し、まちに価値を生み出していくのかという、人口を「質」で捉える考え方である。
社会学者であるZ. Baumanは、リキッド・モダニティ(liquid modernity)という言葉を用いて現代社会を表現している。これまで固定的であった価値観が流動化し、常に変化し続けている社会においては、時代に適合した変容を模索し続けなければならない。新たな社会を設計し、その社会で新たな価値創造を進めていくためには、多様な「知」が必要となる。まちに関わる人々のスキルや知見をまちの資源だと捉え、その資源をまちに還元する活動的な人々が増えることでまちに活力が生まれる。このように、自身のスキルや知見をまちに還元し、まちづくりの主体となる人々を「活動人口」と称し、これらの活動人口が人口減少社会における持続発展可能なまちづくりに寄与すると提唱する。