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2015.10.26 議会改革

揺れる議員報酬のあり方

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東京大学名誉教授 大森彌

2008年地方自治法改正の意義

 2008年の地方自治法(以下「自治法」という)改正によって、203条は次のとおりに規定し直された。「第203条 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。2 普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。3 普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる。4 議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。」。報酬の名称は「議員報酬」に改められた。
 この改正までは、議員を自治体の非常勤職員と同じ条文に位置付け、それが議員の職務とどのように関係しているかは不明確であった。地方公務員のうち一般職の職員は、常勤でも非常勤でも、その任命権者が設定した時間と場所において職務を遂行することになっており、その意味で「任命職」と呼ぶことができ、非常勤職員の場合は「勤務日数に応じた報酬」が支払われることになっている。自治体議会の議員も、この203条に規定されて、報酬が支給されることになっていたため、その活動範囲は、時間的には会期内に、場所的には本会議・委員会など正規の会議で行われる議員活動に限定されているように、非常に狭く解釈されがちであった。しかし、議員は住民によって直接選挙される「公選職」であり、議会活動が本務であるとしても、議員としての活動が自治法の定める正規の会議に出席することに限られるということはあり得ない。

矢祭町の日額制

 この2008年改正の趣旨と議員活動の実態から見て、私はかつて、福島県矢祭町議会が2007年12月に定めた「矢祭町議会議員の議員報酬及び費用弁償に関する条例」に疑問を呈したことがある(日経グローカル編『地方議会改革マニフェスト』日本経済新聞出版社、2009年、208~213頁)。条例は、「議会の議員の議員報酬は、日額とし、30,000円とする」(2条)、「議員報酬は、勤務のつど支給する。ただし、勤務日数が2日以上にわたる場合は、勤務の末日に支給する。2 議員報酬は、次の場合に支給する。(1) 議員が、定例会、臨時会、委員会など議会の正規の会議に出席した場合 (2) 議長が認める町が主催、共催する行事等に出席した場合 (3) その他議会の活動として議長が認めた場合 3 議員報酬は、重複支給しないものとする。」(3条)、「議員が公務のため旅行したときは、その旅行について費用弁償として別表に定める旅費を支給する。」(4条)と定めている。
 新条例の意図は明確であった。矢祭町議会は、根本良一町長の「合併しない宣言」(2001年10月)に呼応して「町民とともに立たん」という決意を表明し、2002年7月には議員定数を18人から一挙に10人にまで減らし、身を切っても「自立する町」にするための強い意志を示していた。
 旧条例では、議員の月額報酬は議長30万円、副議長22万7,000円、議員20万8,000円であった。議員で年収約330万円程度であった。これを廃止し、議会に1回出席するごとに3万円を支給し、これと並行して議員への期末手当も廃止したのである。その結果、議員報酬の総額は年間約3,470万円から約900万円になり、2,500万円の削減となったという。経費削減の効果が強調されていた。
 議員活動は定例会など年間30日程度とされていることから、議員1人当たり報酬は年90万円の見込みで、全国で最低額となった。日額3万円の積算根拠は、町の課長職の平均日給4万4,772円(期末手当などを含む)の7割としている。毎日8時間勤務の職員に比べ、議員は臨時出勤であり、1回の勤務時間も短いため7割としたというのである。
 議員の報酬を日額とし、勤務のつどに支給するとし、しかも、その「勤務」を限定しているから、これは勤務日数に応じた支給である。日額制の問題は、報酬支給の「場合」を限定し、議員活動を「勤務(臨時出勤)」として捉えている点にある。勤務は、定例会・臨時会・委員会など議会の正規の会議に出席した場合などに限られているから、議員としての勤務は場所と時間が限定されることになる。これは行政の職員に引き寄せた発想である。しかも、日額3万円の積算根拠を町の課長職の平均日給の7割としていることから、議員は常勤職員と対比される非常勤とみなされているといえる。ここでは、議員を「公選職」として捉える考え方は希薄ではないかと思われる。こうしたケースが他にも出てくれば、自治体議会の議員の職務と公費支給の関係はますます錯綜(さくそう)することになったかもしれない。しかし、矢祭町議会に追随する議会は現れていない。しかも、その矢祭町議会で、日額制のあり方が議論になっているという。

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