2022.10.25 議会改革
第32回 自治体議会を支える─議会事務局のあり方探見─
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
議会における主役は議員であるが、議員は多様な出自・経歴等をもち、当選回数・議員の経験年数も様々である。議員だからといって、即、議会運営や自治・行政の専門家というわけではなく、それらに通じるにはそれなりの知識経験が必要であり、議員による議会の運営・活動については、それを裏で支える事務方の存在が必要不可欠となる。それが、書記長・書記等による補佐体制も含む「議会事務局」であることはいうまでもない(1)。
自治体議会における事務局の重要性を強調するのは容易だが、どうも何か論じにくいところがある。
一つは、その実態が外からはなかなか見えにくい面があることだ。議会事務局が実際にどのような役割を果たしているかは、自治体議会によっても、あるいは職員によっても異なるのが実際のようだ。
もう一つは、その課題として、限られた職員数など事務局体制が十分ではないことや、その人事のあり方などがしばしば語られるが、現実問題としてそれを変えるのは容易なことではなく、改革の必要をいくら論じたところで関係者にはあまり響かないことが想像されることだ。しかも、問題は既に論じ尽くされている感もあり、何か目新しいことを論じる余地もあまりなさそうだ。
そのような中で、せめて自治体議会の現場で奮闘されている職員の方々にエールでも送りたいところだが、どうも薄っぺらなものと受け取られるのがせいぜいとなりかねない。
1 議会事務局の位置付け
議会事務局は、地方自治法138条により、都道府県議会は必置、市町村議会は条例で定めることにより置くことができるとされているものである。事務局には、事務局長、書記その他の職員を置くこととされており、他方、事務局を置かない市町村議会は、書記長、書記その他職員を置くものとされるが、町村議会では書記長を置かないこともできる。
事務局長と書記長は、議長の命を受け、書記その他の職員は、上司の指揮を受けて、議会に関する事務に従事するものとされている。
議会の事務方については、戦前の市制・町村制や府県制では、書記を置くものとされ、当初の市制・町村制においては、市会では市会が、町村会では議長(町村長)が書記を選任することとされていたが(2)、1911年の改正で、両者とも、書記は、議長が任免するとともに、「議長ニ隷属シテ庶務ヲ処理セシム」とされた。他方、府県制では、当初から、書記は、議長の選任とされ、議長に隷属して庶務を掌理するとされ、1899年の改正により、上記の改正後の市制・町村制とほぼ同様の規定となっていた。
ところで、それらの書記は、議長が任免するために、市町村・府県の吏員には含まれないことになると解され、書記を常置のものとするか、会議のつど臨時に任用するかは、議長の裁量に委ねられるとされていた。このため、議員の任期満了のとき、あるいは議会の解散のときに、書記はその職を失うかどうかが議論となり、行政実例は、議員の任期満了の場合は当然に失職するものではないが、解散の場合には議会の存在を消滅させるものであるから書記も失職するとの解釈をとっていたといわれるものの、議論が分かれていた。このため、1943年の市制、町村制、府県制等の改正で、議会の書記は、吏員の中から市町村長・府県知事が命ずるものとされるとともに、議長の指揮を受けて庶務を処理することとされた。