2015.09.10 議会運営
第43回 政務活動における書籍等に対する支出
全国市議会議長会調査広報部参事 廣瀬和彦
政務活動費により自らが属している政党の機関紙を購入しようと考えているが、購入することは可能か。また、住宅地図や広辞苑も政務活動費により購入することは可能か。
政務活動費は地方自治法100条14項に基づき、会派又は議員等に交付される議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費をいう。
そして地方自治法100条14項で、政務活動費は交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲を条例で定めることが義務付けられている。
ここで政党の機関紙や住宅地図、広辞苑等の購入は、条例で定めた使途基準における資料購入費から支出することができるかどうかが問題となる。
政務活動費の使途基準として定められた資料作成費は、会派又は議員等が行う活動に必要な図書、資料等の購入に要する経費とされ、主な例として書籍購入費や新聞雑誌購読料、有料データベース利用料等が想定されている。
この資料作成費に、①政党が出版する機関紙、②住宅地図、③広辞苑が含まれるか考察してみる。
①政党が出版する機関紙については、2つに分けて考える必要がある。すなわち、(ア)議員が所属していない政党の出版物を政務活動費により購入する場合、(イ)議員が所属する政党の出版物を政務活動費により購入する場合である。
まず(ア)であるが、平成19年12月20日仙台高裁判決等のとおり、特定政党の機関紙については、それが議員の所属政党以外のものであっても、調査研究に資する費用であると認めるのが相当であるとされ、特に政務調査(活動)費による購入について問題とならないと判示され、問題なく政務活動費で購入することが可能であると考えられる。
次に(イ)であるが、議員が所属する政党の出版物を政務活動費により購入する場合における裁判所の考え方は2つに分かれる。1つは平成18年2月15日名古屋高裁判決や平成17年4月12日大阪高裁判決、平成22年3月19日鹿児島地裁判決等で判示されたとおり、政党に属する議員が当該政党の出版物を購読することは、当該政党を経済的に支援し、また政党の方針及び意向を学習するとの側面があるとしても、それが直ちに政党活動に当たるとはいえず、政務調査(活動)費による支出が可能であるとする裁判例。もう1つは平成19年12月20日仙台高裁判決で判示されたとおり、議員が所属する政党の機関紙を購読することは、政務調査活動というよりは政党活動に基づくものであると解され、それゆえ、当該購読料は政務調査(活動)費より支出することはできないとする裁判例である。
2つの考え方があるが、基本的には議員が所属する政党の機関紙には国政や都道府県・市町村に関わる情報や、議員活動や議会活動に有意義な情報が数多く含まれていることから政務活動費により購入することは原則として可能であると考える。
続いて②住宅地図であるが、議員が属する地方公共団体の住宅地図を購入することは議員の選挙活動に資されているとの疑いももたれるところではあるが、平成24年1月31日福岡高裁判決では、会派からの委託に基づき各議員が県政報告会等を開催するなどの調査研究活動をしていたと認められる場合において、その活動目的に照らせば住宅地図は調査研究活動をするに当たって必要なものということができると判示されている。
また、平成25年3月21日広島高裁判決でも、住宅地図が選挙目的のために購入されていると原告が主張するが、そのことを疑わせるに足りるまでの事情は認められず、むしろ住宅地図は道路や河川、建物の位置や周辺地域の状況等を確認するのに資するものであり、交通事情やごみ処理問題等の市政に関する調査研究に有益な資料ということができ、議員の調査研究活動のための支出として合理性ないし必要性を欠いているとまではいえないとされ支出が認められている。
さらに平成26年3月18日大阪高裁判決で判示されているとおり、当該地方公共団体の地図は市政に関する調査研究を行う上で必要な資料であると解され、また議会活動に関する調査研究と関連性のない書籍であると認めることはできないから議員の行う調査研究活動のために必要な図書及び資料に当たると解するのが相当であり支出が認められた。なお、住宅地図の内容が選挙活動その他の活動に利用しうるものであるとしても、証拠上、これらの書籍が選挙活動その他の活動に利用されたことをうかがわせる事情は認められないから、住宅地図が調査研究以外の目的で購入されたものであるということはできないとされている。
以上から、原則として政務活動費により住宅地図を購入することはその主たる目的が明らかに選挙目的のためであると推察されない限り購入することは可能であると解する。
最後に③広辞苑であるが、平成26年3月18日大阪高裁判決や平成22年2月19日徳島地裁等の判決で判示されているとおり、政務活動費により広辞苑を購入することは可能であると考えられる。なぜなら広辞苑は辞典としての機能を有しており、議会活動に関する調査研究に当たってはこれらの書籍を活用して用語及び概念等の意味、地形及び地勢、各地域の特質、統計情報その他様々な事項に関する調査等を行うことは十分に考えられ、その内容が議会活動に関する調査研究と関連性がないということはできないから、議員の行う調査研究活動のために必要な図書及び資料に当たると解され支出することが認められると考えられる。