2022.05.25 政策研究
第26回 区域性(その6)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
境界の意義
自治体にとって区域は基盤であるために、区域や区域を画定する境界の確定は、極めて重要な課題である。
為政者にとっては、区域は、為政の作用対象となる義務又は権限の範囲を決めるとともに、為政による徴用・利用対象となる資源の範囲を決めるため、自らの権力に影響する。合利的に推論して、義務負担は小さく、権限を含めた資源獲得は多いことを、為政者は求めるかもしれない。区域の拡大/縮小は、義務負担と資源獲得を一体として拡大/縮小するものであり、資源獲得のみ行い義務負担をしないという「いいとこ取り」はできない。ただ、為政者が資源獲得を正当化するため、あくまで「地域における行政」という仕事をする(責任や義務や役割がある)からという理由が必要であり、その意味では、義務負担の拡大は資源要求の根拠となるので、両者は相乗的である。
個々人にとっては、区域がどのように画定されようと、区域割に空隙も重複もないならば、どこかの自治体の区域に割り当てられるだけであるから、どのような区域画定であろうと関係ないという立場もあろう。しかし、為政者と同じ目線に立って、義務負担=資源獲得の拡大を意味する区域拡大を利得として望み、区域縮小を損失として嫌うかもしれない。
例えば、自治体A区域の個人は、自治体A為政者と同様に、X区域を吸収・併合すると、A+X区域という、より大きな区域の個人となるわけであって、より大きな区域を所属するものとして、自らの利得になったように感じる(錯覚する)かもしれない。あるいは、自治体A区域の個人は、所詮は自治体A為政者に収奪されてきただけの存在であるので、それが、A(+X)区域の為政者に変わったからといって、特に損得は感じないかもしれない。さらに、より大きな人間集団に埋没して、「1票の価値」が小さくなるので、より大きな区域に所属されるものとして、疎外感を持つかもしれない。もともと無のような存在であるとして、特に何も感じないかもしれない。
また、もともとは自治体Aに属する区域Yの個人が、自治体Bに「領地替え」になって、自治体Bの個人に移管されたとしても、収奪する為政者が自治体Aから自治体Bに変わるだけで、収奪されることには変わりがないので、何も感じないかもしれない。あるいは、自治体A・Bの為政の良否によって、判断が分かれよう。
小さな自治体B区域の個人は、BがAに吸収合併されることにより、小さなB区域の個人から、より大きな自治体A(+B)区域の個人になることによって、自らの利得になったように感じるかもしれない。自治体A(+B)の為政者と同じ発想である。しかし、自治体Bにおいて主導権や一体性(アイデンティティ)や有効性を持っていたと実感していたB区域の個人は、B区域の主導権を自治体A(+B)の為政者に奪われると感じるならば、旧自治体Bの為政者と同様に、喪失を感じるかもしれない。その意味では、B区域の個人が、旧自治体Bの為政者と同じ目線に立つこともあろう。