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2015.06.25 政策研究

第4回 若者の安定志向や草食化を確かめる

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アルファ社会科学株式会社主席研究員 本川裕

長く続けられている意識調査は貴重

 人々の意識や考え方は時代とともに大きく変化している。これは各人が実感していることであろう。しかし、人によって感じ方が異なるので、私がそう感じるといっても説得力が得られるとは限らない。また、人々の意識が変わってきたことは確かだとしても、どの程度の変化かは自分でも自信が持てないことが多い。さらに、意識は男女や年齢層によってかなり異なることがあるので、私がそう感じるといっても、それはオジサンだけの見方と批判されてしまう。
 ここで出番となるのは、意識調査や世論調査である。特に同じ設問で長く継続実施されている調査の結果は数字で意識変化が定量的に確かめられるので、極めて説得力のあるデータとなる。
 そうした意識調査として重要であり、また調査方法が公正で権威を持っているのは、日本国民を対象としたものとしては、以下の3つである。
① 「世論調査」(内閣府)――戦後すぐから定期的(全てが継続設問ではない)
  ただし、毎年実施されているのは「国民生活に関する世論調査」、「社会意識に関する世論調査」、「外交に関する意識調査」の3つ
② 「日本人の国民性調査」(統計数理研究所)――1953年以来5年ごと
③ 「日本人の意識」調査(NHK放送文化研究所)――1973年以来5年ごと
 ここで紹介するのは、これらではなく、若者を対象に長年継続調査されている調査結果である。公益財団法人の日本生産性本部は、毎年何種類か、新人社員に対する研修事業と併せてアンケート調査を継続実施しており、長い調査では昨年度までで46回目のものもある。上の3種の意識調査と同様、日本生産性本部が行っているこれらの調査も、ネット上で容易に結果を入手できる。「最近の若者は」と言いたくなったときには、この調査の結果を引用しながら語れば万全である。
 今回は、1番目に、メディアでもよく引用される新入社員のキャリア志向についての結果を取り上げ、2番目に、ほとんど注目されてこなかったが若者の草食化を示す意識変化を取り上げることにする。

新入社員のキャリア意識は安定志向が定着

 若者には覇気がなくなったとよくいわれる。この点を、新入社員のキャリア意識の変化から探ってみよう。
 転職についての設問で、転職は考えず「今の会社に一生勤めようと思っている」と回答した人は、2000年の20.5%からどんどん増加し、2012年には60.1%とわずか10年の間に3倍となった。他方、「社内で出世するより、自分で起業して独立したいか」という設問に「そう思う」と答えた新入社員は、2003年の31.5%から2014年の11.8%へと半分以下に大きく減っている。こうした終身雇用志向と独立回避志向の強まり、言い換えれば安定志向への傾斜は2000年代を通じて著しく高まったが、2010年頃を境にいずれも横ばいに転じており、2010年代に入ると安定志向はほぼ定着したといってよいだろう。

図1 新入社員のキャリア意識は安定志向が定着図1 新入社員のキャリア意識は安定志向が定着

 5年前の2010年に、英国の有力経済雑誌エコノミストは、日本経済が中国経済にGDP規模で追い抜かれる日が来ていることを「ジャパン・アズ・ナンバー3」という題で記事にした。その中で、同誌記者は、日本経済の活力が失われ、ナンバー3どころか、ナンバー4、5に落ちていきそうな状況にある点を日本社会において同時進行しつつあるいくつかの劣化現象から占っている。若者から覇気が失われている点について、この図(2010年度までのデータの図)を引用しながら、次のように指摘している。
 「かつて現代のサムライと見なされていた日本のサラリーマンは今日では“草食男子”として知られるようになった。(筆者注:図のデータを解説後)経営者たちは若者が海外赴任を避けることを嘆いている。外務省の官僚さえ日本人の外交官が母国にいたがるとこっそり打ち明けるぐらいだ」(The Economist, August 21 2010)。
 この記事に影響されてか、2011年度からは、海外勤務についての新たな設問が加えられた。海外勤務についても、これを好まない傾向が増しており、海外勤務のチャンスに応じたいとする意見は2015年に初めて50%を切っている。
 若者の意識では安定を求める終身雇用志向が高まっている一方で、企業側は、むしろ能力主義を基調とする雇用管理の姿勢を崩しておらず、ややもすると労使の意識ギャップが拡大しかねない。若い社員にはどんな企業もブラック企業に見えてしまう危険性が増しているのではないかと懸念される。

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