2021.12.27 議会改革
第25回 自治体議会の権限について改めて考える(3) ─総括的な考察と展望─
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
引き続き自治体議会の権限について考えていくが、今回は、前々回と前回の検討や資料を踏まえ、若干の分析と総括的な考察を加えるとともに、その権限のあり方や今後についても展望してみたい。
1 国法上の議決事項に関する若干の分析
前回において資料(表1・表2)として示したように、法律又はこれに基づく政令で議会の議決の対象とされている事項は膨大なものとなっており、これをどのように分析・評価するかはなかなか難しいところがある。
大まかな傾向としては、地方自治法や自治関係法令においては、条例、予算、決算といった基本的な権限以外では、自治体の廃置分合・境界変更等の区域に関する事項、自治体の組織や関係団体の設立等に関する事項、自治体の財政や財産にかかわる事項、公の施設に関する事項、自治体の相互協力に関する事項などが主な対象となっているといえる。対外的に自治体として申請・意見・協議・同意・承諾等をする場合に議会の議決を経る形をとるものが多いのも特徴の一つとなっている。
また、個別の行政分野では、国土建設と農林水産の分野のものがほとんどであり、議会の議決事項とされているのは、公物の設置・管理、計画、費用の負担などに関する事項が多い。
他方、議会の同意の対象とされている事項としては、人事に関するものが多く、承認の対象は、様々であるが、事後的なものが少なくない。
意見については、意見書がその典型ではあるが、長の諮問を受けて行う形のものが多く、地方自治法が定める審査請求に関するものが目立つ。
その上で、いくつか注目すべき点について、言及しておきたい。
第1に、議会の議決事項の性格ないし議決の対象とする趣旨ということでは、自治体の財政・財産に影響を及ぼすものが多いことである。地方自治法96条1項の議決事件のうち、条例の制定改廃(1)や公共的団体等の活動の総合調整などを除き、その多くがこれに該当ないし関係し、また、それ以外の事項でも、費用負担だけでなく、組織の設置、団体の設立、施設の設置などもこれに関係するものといえる。そこでは、必要性の確認、恣意の抑制・排除、公正・適正の確保、無駄や損害等の防止などが目的となる。住民の代表機関である議会がこれらの決定にかかわり、チェックすることは、財政民主主義の観点からも要請されるものである。
第2に、公物の設置・管理について議決事項とされているものが多いことである。これは、住民に対する行政サービスにかかわるものであるとともに、財政や財産に影響を及ぼすものでもある(2)。公の施設の設置・管理については、営造物概念が用いられていた時代にはその設置・処分が議決事件とされていたのが公の施設に再構成された際に条例事項とされているが(3)、これも引き続き議会のチェック・決定に委ねているとも見ることができる。
第3に、そのような中で、近年においても、契約の締結、私権の設定、施設の設置、費用の負担、計画など、個別の議決事項が拡大されてきていることである。特に、PFI事業においては、債務負担行為の議決とPFI事業の契約締結の議決が必要となるほか、公の施設の場合には、施設の設置管理条例の制定、指定管理者の指定の議決が必要となるとともに、公共施設等運営権を設定する場合には、民間事業者の選定の手続、公共施設等運営権者が行う公共施設等の運営等の基準及び業務の範囲、利用料金に関する事項等を定める条例によって実施方針が策定され、その設定と権利の移転にも議会の議決が必要とされている。自治体が定めるPFIガイドラインを見ると、各段階での報告などさらに細かく議会への対応が定められていることが少なくない。公正性・公平性・客観性・透明性などの確保のため慎重な手続・議会の民主的統制が重視されているものであるが、その反面、議会の側からは面倒で手間がかかる手続(4)、事業者の側からは政治的リスク(5)と見る向きなどもあるようだ。
第4に、議会の同意事項として、長による具体的な処分を対象としているものがあることである。建築基準法11条1項が定める特定行政庁による建築物の除却、移転、修繕、模様替、使用禁止又は使用制限の命令と、景観法70条1項が定める市町村長による建築物の改築、模様替、色彩の変更その他都市計画において定められた建築物の形態意匠の制限に適合するために必要な措置をとることの命令である。前者において命令の手続的要件として議会の同意を求めたのは、一つには当該市町村が補償義務を負うことになること、もう一つには違反建築物に対する是正措置命令の予告通知と公開聴聞の代替機能を果たさせるところにあるとされ(6)、後者ついては、建築物の所有者等の権利に十分配慮する必要があることによるものとされている(7)。
これらは、議会が執行の適正の確保、住民の権利利益の擁護の機能を担っているとも見ることができる。
なお、銃砲刀剣類所持等取締法26条では、銃砲刀剣類の授受・運搬・携帯の禁止・制限の告示に関する7日以内の都道府県の議会の事後承認が規定されている。これは、災害、騒乱その他の地方の静穏を害するおそれのある事態において都道府県公安委員会によって講じられたそれらの措置に対する承認であり、非常時・緊急事態における緊急措置(権利制限)に対する議会による発動要件該当性・必要性の判断・チェックを定めたものといえる。
第5に、給与その他の給付に関する処分、分担金・使用料・手数料等の徴収に関する処分、歳入の督促・滞納処分等、行政財産を使用する権利に関する処分、職員に対する賠償命令、公の施設を利用する権利に関する処分に対する審査請求については、地方自治法により、行政不服審査法による行政不服審査会ではなく、議会への諮問手続を経て裁決を行うものとされている。
長が審査請求を受けて裁決を行う場合に議会に諮問をする制度については、戦前においては参事会が決定し、あるいは参事会に諮問していたという主に沿革的な理由によるものであり(8)、必ずしも住民の権利保障の観点からのものではないともいわれる。議会は公平な第三者との見方もあるようであるが、行政不服審査制度の整備に伴い、第三者機関である行政不服審査会等への諮問や行政不服審査会等の調査審議手続が規定されている通常の行政不服審査との対比から、その合理性に疑問を呈する向きもある。なお、給与については、一般職に関するものは地方公務員法により人事委員会又は公平委員会への審査請求とされており、独立性・中立性を有する行政委員会が審査することになっている。
特に、保育所や幼稚園(特定教育・保育施設)に係る保育料をめぐっては、公立・私立を問わず、子ども・子育て支援法により条例で定める利用者負担額を保護者から徴収する仕組みとされているところ、公立の保育所・幼稚園に係る利用者負担額の決定は公の施設の使用料の決定処分といった性格をもつため、当該利用者負担額に不服がある場合の審査請求については、地方自治法229条により、議会に諮問されるとともに、訴訟の提起につき審査請求前置とされているのに対し(9)、私立の保育所・幼稚園に係る審査請求については、行政不服審査法により、行政不服審査会に諮問されるとともに、審査請求前置の対象とはならないことになる。このように公立と私立で利用者負担額の決定処分に対する救済手続に相違が生じることについては、合理的な説明が困難であり、公平性を欠くとの見方がある。このため、公立の利用者負担額に係る審査請求についても、議会に諮問するのではなく、行政不服審査会に諮問するよう措置することを求める提案が一部の自治体から国に対してなされている。
これに対する総務省の第1次回答は、「第7次地方分権一括法において、給与等に関する事務に係る審査請求が不適法であり却下する場合における議会への諮問手続を廃止し、事後の報告とする旨の改正を行っているが、その際、給与等に関する事務に係る審査請求において、特に認容裁決となる場合には、地方公共団体の財政に影響を与える結果となり得るところ、本案審理に入る事案について、諮問手続を簡素化することは適当ではないという整理がされている」というものであったようであるが、事案によるとはいえ、利用者負担の金額、財政への影響という点では公立と私立とで異ならないことなども考慮するならば、どこまで説得力のある回答となっているのか疑問である(10)。現実には、諮問に対する議会の対応や答申の形式化・形骸化なども指摘されており、救済を求める側の立場なども考えるならば、議会への諮問制度の意義・あり方について問い直してみることも必要なのではないだろうか。