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2015.06.10 政策研究

奄美群島の世界遺産登録を後押しする島ぐるみの共通市町村条例

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 奄美群島(鹿児島県)と琉球(沖縄県)は、豊かな亜熱帯照葉樹林が広がり、亜熱帯と温帯の生物が数多く生息するなど世界的に貴重な生態系と生物多様性を持つ。この地域には、特別天然記念物で、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)で国の指定を受けているアマミノクロウサギをはじめ、アマミヤマシギといった鳥類や、アマミデンダ、アマミセイシカといった植物など土地の名前を冠した珍しい動植物が数多く生息し、生育している。

 政府は2013年1月に、「奄美・琉球」を世界自然遺産の候補地に決め、ユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産センターに暫定リスト記載のための書類を提出した。同年12月には、国と、鹿児島、沖縄両県が共同で設置した奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会が世界遺産の登録候補地を奄美群島の奄美大島と徳之島、琉球では沖縄島北部と西表(いりおもて)島に絞っている。このうち、鹿児島県の候補地で重要な役割の一端を担っているのは、希少野生動植物保護条例、山羊(ヤギ)の放し飼い防止条例、飼い猫の適正飼養条例である。いずれも関係市町村が協議を重ね、島ぐるみで同様の内容の条例を制定している。

 希少野生動植物保護条例は、希少野生動植物の保護を強化し、後世に継承することを目的にしている。希少野生動植物については国が種の保存法、県が希少野生動植物保護条例で捕獲、採取などを禁止しており、市町村条例はそれらを補完する形である。この条例については奄美市が2006年に先行して制定していた。その後、徳之島3町(徳之島町、天城町、伊仙町)が2012年に、奄美大島の4町村(大和村、宇検村、瀬戸内町、龍郷町)が2013年にそれぞれ制定し、奄美市は2013年に一部を改正した。同条例に基づき、奄美大島の5市町村は島ならではの固有種や、数の少ないもの、盗採のおそれがあるものなど合わせて57種を希少野生動植物(奄美大島版レッドリスト)に指定し、捕獲や採取、殺傷などを禁止している。徳之島の3町は植物26種、昆虫5種を「徳之島版レッドリスト」に指定している。各市町村とも違反者に対する同一の罰則規定も設けている。

 山羊の放し飼い防止条例は、奄美大島の5市町村が2007年から2008年にかけて制定した。ヤギの飼い主の管理責任を明確にし、小屋や柵の中で飼育し、首輪などで所有者を明示し、市町村長への飼育状況の報告を課している。この条例は徳之島3町にはない。

 飼い猫の適正飼養条例は、奄美大島の5市町村が2011年に、徳之島の3町が2013年から2014年にかけて制定した。飼い猫の市町村への登録を義務付けるとともに、野良猫への餌やりの抑制や、飼い猫を識別するためのマイクロチップの装着を努力義務にしている。

 貴重な動物が猫やヤギによって捕食されていることが関係機関の調査で明らかになったことが、2つの条例制定のきっかけになった。動物は餌を求めて動き回るため、一市町村だけの規制では効果が薄いことから、島ごとに足並みをそろえた。

 鹿児島県では1993年に屋久島が世界自然遺産に登録されている。当時の屋久島は、上屋久町と屋久町に分かれていた。両町議会は自然と人間との共生による島づくりを目指した屋久島憲章を世界遺産登録の2か月前に決議したものの、共通の条例を制定するまでには至らなかった。この轍(てつ)を踏まないように、奄美群島の場合は、早くから市町村が連携を強め、鹿児島県や環境省、林野庁など国も支援態勢を整えている。条例制定時やその後の啓発には、鹿児島県大島支庁が一役買っている。環境省奄美、徳之島両自然保護官事務所や奄美野生生物保護センターも、調査や啓発活動に加え、飼い猫にマイクロチップを無料で装着する事業を用意している。沖縄県では、ヤンバルクイナなどの生息する国頭(くにがみ)、大宜味(おおぎみ)、東3村が飼い猫の登録を義務付ける共通の「ネコの愛護管理条例」を制定している。ただ、同県で選定された地域のうち沖縄島北部は沖縄本島の一部であり、西表島は、石垣島の南西に点在する大小16の島からなる竹富町のひとつの島である。こうした事情から世界遺産の指定を視野に入れた島ぐるみの条例はない。

 これより前の2003年に環境省と林野庁による世界自然遺産候補地検討会は、奄美・琉球のほか北海道の知床と東京都の小笠原諸島を「世界自然遺産の登録基準を満たす可能性が高い地域」に選定している。このうち、知床は2005年、小笠原諸島は2011年に自然遺産に登録されており、奄美・琉球だけが残った形である。文化遺産ではユネスコの諮問機関が2015年5月に、日本の近代化を支えた8県の23遺産を「明治日本の産業革命遺産」として登録する勧告をしている。それだけに、2017年度の世界自然遺産の登録に向けた関係者の期待は大きい。

世界自然遺産の登録に向けて啓発に力を入れる環境省奄美野生生物保護センター(鹿児島県大和村)世界自然遺産の登録に向けて啓発に力を入れる環境省奄美野生生物保護センター(鹿児島県大和村)

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