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2021.10.25 議会改革

第23回 自治体議会の権限について改めて考える(1)─議決事件─

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慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司

 これからの自治体議会のあり方を考える上で、現行制度における議会の権限をどのように評価するのかという問題がある。すなわち、その権限は広いと見るのか限定的と見るのか、強いと見るのか弱いと見るのか、あるいは住民を代表する意思決定機関として量的・質的にふさわしいもの・適切なものとなっているのかという問題であり、この点をめぐっては、それぞれの立場などによって、見方が分かれている。このことは、それらの権限を担う議員としてどのような者を想定し、どのような役割を果たすことを求めるのか、また、それらの権限については、それぞれの議会が十全に担いうるものであり、実際に十分に担っているといえるのかということにもかかわってくる。
 そこで、3回にわたり、自治体議会の権限について、これまでの検討とは異なる角度から改めて考えてみたい。
 今回は、議会の議決事件ないし議決事項について、その意義・位置付け・種類・効力等とその歴史について見ておきたい。

1 議会の意思決定の種類

 議会は、その権限行使として、議決(1)を行い、その意思を決定する。その意思決定の内容は様々であるが、これらについては、その位置付け、性質、内容等により、おおよそ次の三つに大別できるとされている。
 第1は、団体意思の決定である。
 これは、議会の議決が自治体の意思となるものである。団体意思の決定に関する事件の典型は、地方自治法96条1項に掲げられる条例の制定改廃、予算の制定、決算の認定などであり、これらについては議会の議決によって当該自治体としての意思が確定することになる。
 第2は、機関意思の決定である。
 これは、自治体の一つの機関である議会の意思決定、すなわち議会としての「機関意思」の決定と位置付けられるものである。これには、議員の懲罰や長の不信任などのように法的効果をもつものと、議会としての意見、一般的な決議などのように法的な拘束力をもたず事実上の効果があるにとどまるものとがある。
 第3は、執行機関の執行の前提としての意思の決定である。
 これは、長その他の執行機関が権限の行使や事務の執行に当たり、その前提となる要件・手続等として議会の議決・同意などが必要とされている場合における議会の意思決定を指すものである。条例で定める契約の締結や財産の取得・処分、副知事・副市町村長の選任の同意などがその例である。
 なお、第3の類型は、第1と第2の類型とは観点を異にするところがあり、そこで決定される意思は、その性質からすると本来的には団体意思と機関意思のいずれかということになる。このようなことなどから、議会の意思決定の分類として、団体意思と機関意思の二つに区分されることもある(2)
 この3類型については、実務上、議案(3)の発案権(提案権)の所在に関係するものとされており、団体意思の決定に関する議案は、長に専属する予算の提出などを除き、原則として議会の議員(委員会を含む(4))と長の双方に発案権があるのに対して、機関意思の決定に関する議案は、原則として議員に発案権が専属し、執行機関の執行の前提としての意思決定に関する議案は、原則として長に専属するものとされている。また、議員が議案を提出する場合の議員定数の12分の1以上の賛成者要件を定める地方自治法112条2項の規定は、団体意思の決定に関する議案についてのみ適用があり、機関意思の決定に関するものについてはそのような要件は法定されておらず、会議規則で何らかの要件を定めるかどうかの問題となる(5)。このほか、執行機関の執行の前提としての意思決定に関する議案の場合には、議会での修正は認められないとされることが多い。
 議案の発案権の所在というのは、議会の位置付けや役割について考える上で、重要な意味をもつものであり、とりわけ現代議会においては、議会の審議・議決は実際上同意調達のプロセスになっていることなどからすると、発案の作用・過程がもつ意味は大きいといえる。
 そこで、問題は、議会の権限とされているそれぞれの意思決定がこれらの三つの類型に明確に区分できるかどうかである。この点、議会の議決事項について概観する作業(その結果の一覧表は次回に掲載)を通じて感じたことでもあるが、実際には微妙な場合が少なくない。また、発案権の所在に関しても、3類型は一つの目安とはなるとしてもどこまで基準たりうるのか、疑問もあり(6)、結局は個々の規定を踏まえて判断するほかないところがある。
 その点に関連して、例えば、解説書の中には、地方自治法96条1項各号に掲げる事件の議決は、団体意思に関する議決であるとの説明をしているものがあるが、それが上記の3類型に立った上でのものかどうか定かではないようにも見える(7)。仮に、それらが団体意思に関する議決だとしても、同項5号から9号までの予算の執行や財務に関する事項については、本来的に長の権限とされているものであり、また、事務執行の手続の面からしても、長が議案を提出することにならざるをえず、議員が議案を提出する余地はほとんどないものと解されているところである。3類型によるのであれば、それらについては執行機関の執行の前提としての意思の決定と捉える方が素直なように思われる。
 以上のようなこともあってか、ある総務省関係者による解説(8)では、議案の発案権の所在について、意思の区分だけによらず、①法律の明文の規定により議案提案権が議員又は長に専属せしめられている場合はこれに従う、②長の執行行為の前提要件とされている事項の承認を求める議案の提案権は原則として長に専属する、③機関意思の決定に関する議決を求める議案の提案権は原則として議員に専属する、④法律上「長が議会の議決を経て定める」旨規定しているものの提案権は原則として長に専属する、⑤条例の提案権は議員と長の双方にあるが、一定の事項については例外的に議員又は長のいずれかに専属せしめられている、といった基準を示すとともに、「原則として」としているものについては例外もあり、このような場合にはその議案の内容・性質によって具体的に判断しなければならないとする。
 いずれにしても、意思決定の3類型による区分の意義まで否定されるものではないとしても、その区分はそれぞれの規定の解釈によることになり(9)、また、それによっていかなる事項についてどのような相違にどの程度結び付くかについては、慎重に見定めるべきところもあるように思われる。そして、執行機関の執行の前提としての意思の決定というカテゴリーについては、同意や承認のように議会の機関意思が執行機関の行為における要件・手続となっているものではなく、団体意思にかかわる議決の場合には、その権限が本来的に長等に属するものであり、その発案権は長のみとすべきものかどうかといったことから、いわば帰納的に判断されているところもあるようにも見える。

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