2021.04.26 政策研究
第13回 地方性(その4)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
「地方(ちほう)」と「地方(ぢかた)」
地方改良運動から地方創生(まち・ひと・しごと創生)まで、さらには、現在進行中の「2040構想」に至るまで、国が地方圏に関心を持つとき、国政や国政為政者や国策にとってメリットがある限りで進める動機があり、また、メリットのある方向にのみ誘導されることになる。
地方改良運動は、国が期待する事務を地方(自治体)が担当することを期待し、また、地方自治体がそうした財政負担を可能にするために、地方(地域社会)の経済活性化を進め、さらには、地方の人々がそうした経済果実を浪費することなく倹約貯蓄して、国政事務に奉仕することを目指すものである。
地方の経済活性化を期待するのは、地方創生においても見られる。「しごと」を生み出すことが、「まち・ひと」につながる。そのために、総合戦略という地方経済活性化のプランを各自治体に策定することを求めた。これと同じことは、地方改良運動では、「模範町村」と「町村是」運動として、展開されていた。「2040構想」では「地域の未来予測」となっている。「模範町村」とは、今日的にいえば、「成功事例」の紹介である。「町村是」とは、町村などの地域社会経済の調査に基づき、経済活性化その他の計画を立案することである。
地方経済での倹約貯蓄を地方圏に期待する地方改良運動は、地方創生というよりは、小泉政権の竹中平蔵総務相のもとで提唱された「地方分権21世紀ビジョン」に近いかもしれない。小泉政権は、アメリカ主導の対テロ戦争などへの戦費負担を進めるとともに、経済財政面では構造改革を掲げ、公共事業などを削減し、三位一体の改革では地方交付税など地方一般財源を削減していった(いわゆる「2004年地財ショック」)。その帰結は、町村瓦解としての「平成の大合併」と、自治体による歳出削減(のみ)の自由を拡大するという「地方分権21世紀ビジョン」であった(2006年7月3日付け)。結局、倹約貯蓄の期待であり、地方改良運動の直系の末裔(まつえい)ともいえる。
しかし、こうした国が期待する地方像が、地域社会や地域住民の要望や期待、さらには、実情を反映した地方像と一致するとは限らない。むしろ、「町村是」運動では、杓子(しゃくし)定規な調査項目に沿って、部外者が形式的に数値を埋めていった、形骸化したプランになっていったことが、当時から批判されていた。今世紀の「合併計画」、「集中改革プラン」、「総合戦略」に対する批判と同じである。こうした地方改良運動への批判のなかで登場してきたのが、「地方(ぢかた)」学であった(1)。