2021.01.29 政策研究
第10回 地方性(その1)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
地方自治と自治
近年では、一般に「自治」とか「自治体」などと呼ぶことも増えているが、この「自治」とか「自治体」なるものは、通常のところ、「地方自治」や「地方自治体」をいわずもがなで意味していることが多い。しかし、法制的には、憲法では「地方自治」の章に「地方公共団体」という用語が用いられている。
つまり、憲法その他の法的正式名称はともかく、「地方」という修飾語を付けなくても、「自治」といえば「地方自治」であり、「自治体」といえば「地方自治体」である。例えば、「お住まいの自治体にご相談ください」などといわれれば、住所地の市区町村か都道府県に決まっている。もっといえば、第一義的には市区町村を意味しているのが普通である。そうであるならば、「地方」とは、無用な修飾語となる。
しかし、実際には、そうではない。「自治性」についての講義を先取りすることになるが、「自治」には、「地方自治」以外にも、例えば「大学の自治」とか、「私的自治」とか、「労使自治」とか、様々な類語がある。加えて、自治体現場で重要なのは、部落会・町内会の仲間としての「自治会」であり、あるいは、住民自治組織、地域自治組織などである。学校では学生による「自治会」が組織されることもあるし、寮を「自治」的に運営することもある。したがって、「地方自治」における「地方性」は、単なる無意味な修飾語ではない。