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2020.12.25 議会改革

第15回 住民と対話する

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慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司

1 民意と議会

 住民は、地方自治体の基本的な構成員であり、自治の本来的な主体である。他方、地方自治においても、代表民主制が基本とされており、議会は、住民の代表機関として、自治体の意思を決定することになるが、そこでは、住民の意思(民意)を反映しつつ、その権能を行使することが要請されることになる。
 その場合に、民主政治の基本的なあり方としては、「住民のための政治」と、「住民による政治」といった二つの側面がある。住民のための政治が、住民全体の利益につながるものであるべきとする内容面にかかわる要請であり、代表としての公共的な判断を重視する議論と結び付くのに対し、住民による政治は、その本来的な主体が住民であることを前提に、その内容の面だけでなく、制度的・手続的な面で具体的な住民の意思が反映されるべきことを求めるものである。この二つの要請は、密接に関連するものであると同時に、時に対立的なものともなりうるが、住民自治を基本とする地方自治においては後者に重きが置かれることになる。
 他方、住民の意思の反映といっても、その前提として、「住民の意思」がどのようなものであり、どのように把握するかということも問題となる。この点、民意は計測不能なものであるとか、そもそもそのようなものは存在しないとの見方もある。確かに、民意は、多様・流動的・気まぐれであり、はじめから実体的に、あるいは単一のものとして存在しているわけではない。しかしだからといって、それを把握困難としてしまうことは、民主主義の建前を否定することにもなりかねず、ましてや、その規模にもよるものの、地方自治では民意は比較的把握しやすいといえるだろう。
 加えて、住民の意思を問題とする場合に、個々の住民がもつ自然的・経験的な意思と、住民全体の利益にかかわる公共的・規範的な意思とを区別し、いずれを重視すべきかが論じられることもある。上述の民主政治の基本的あり方にもかかわるものだが、これらの二つの意思は、できる限り調和的・補完的に捉えられるべきものの、自治における住民の意思ということでは前者の実在する民意の反映が重視される一方、後者による場合には住民の説得に努めるとともに、しっかりと説明責任を果たすことが必要不可欠となる。
 なお、現実には、多種多様な意見・利害が多元的・断片的・流動的な形で存在しているのであり、そのような中で、住民の意思は、何らかの形で把握され、選別され、集約されることによって反映されることになるのであり、また、それは最初から存在しているのではなく、常に形成され、変動するものであって、それが選挙や立法の過程のそれぞれの段階で断面として写し取られることになるといえる。そして、最終的には、それが議会の決定という形で自治体の意思に転化されたときに、その自治体の意思と住民の意思との間の近似性が問題とされることになるのである。その場合、住民の意思を、基本的に、住民の多数の傾向と捉えるか、それとも少数派も含めたそれぞれの住民の意思の分布・集積と捉えるかによっても、その意味するところが異なりうることになる。
 住民の意思の反映は、選挙から始まって議会での審議・決定などあらゆる場面において要請されるのであり、そのための制度・手続としては、選挙、解散、請願、審議会、パブリックコメント、情報公開、議会における公聴会・参考人・審議公開、直接請求、住民投票などの装置があり、それを担うアクターとしては、議員、長、政党、利益集団、マスメディア、市民団体、NPOなど様々なものが登場することになる。
 住民の意思の反映や住民参加の必要性については、それぞれの議会において、頭では理解しているはずであっても、それに対する実際の姿勢や取組みには、議会による温度差がかなりあり、本音の部分ではネガティブな感情を抱く議員もなお存在し、それが何らかの形でその態度や行動に現れることもある。行政における住民参加や、市民団体等による批判や要求などに対し、議員の側が不信感をあらわにするような光景も目にする。
 しかしながら、二元代表制の下で、議会が歩むべき道は、住民との対話や協働にあるというべきである。
 住民参加に関しては、「代表」と「参加」とはしばしば対立的に捉えられてきた。理論的にはそのようなところもないわけではなく、民主主義をめぐっては間接民主主義(代表民主制)と直接民主主義(直接民主制)との関係をどのように理解するのかといった基本的な問題もある(1)。しかし、地方自治、とりわけ基礎自治体における自治において、議会と住民との関係については、融合的に捉えられるべきであり、代表と参加は矛盾するものではない。むしろ、住民との関係の強化は、住民自治の中核機関としてこれからの議会のあり方を考えていく上で不可欠なものとなってくるのであり、特に中小規模の基礎自治体の議会では住民参加の拡充による住民との協働を模索していくことが不可避となってくるだろう。
 議会が、リーダーシップを強める長に対抗していくためには、住民との関係を強化していくしかないのであり、それを抜きにしていくら代表だとか公選職などと強調してみたところで、選挙の機能が弱まりその民主的正統性が揺らいでいる中では、住民の理解や支持は得られることはなく、逆に議会に対する厳しい見方や批判が強まることになりかねない。
 ただし、住民との距離ということでは、広域自治体の議会の場合は距離がどうしても遠いところがあり、それは規模の大きい基礎自治体の議会にも当てはまる面があるが、それらの議会においても、審議の場での住民の多様な意見の表出と調整は不可欠であり、そのような様相・状況をつくり出せるかどうかが問われることになる。

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