2020.12.10 議会運営
第53回 議決で議員の発言を取り消すことができるのか
議会事務局実務研究会 吉田利宏
お悩み(不本意さん 30代 市議会議員)
本会議で行った発言が取り消されました。ある議員から不穏当な発言として動議が提出され、採決の結果、取り消されてしまったのです。「市は市民をだますような行為を直ちにやめるべき」と述べた部分が取り消されました。確かに、地方自治法129条1項には「議場の秩序を乱す議員があるときは」議長は発言を取り消させることができるとあります。しかし、私の発言のどこが秩序を乱しているというのでしょうか? そもそも、議長が発言の取消しを命じるとされているのにもかかわらず、議決により取消しを行うのは地方自治法違反のように思えてなりません。なぜ可能なのか、ご意見を伺って、発言の取消処分の取消しを裁判所に訴えようと思っています。
回答案
A 自治体議員には地方自治法上の特権の一つとして、免責特権があり、議事堂内で行った演説等については責任を問われない。議長が発言の取消しを行うのは本人の申出を受けたときのみであり、議決による発言の取消しはできない。
B 議長の発言の取消命令は秩序を乱す発言などに対してなされるものであるが、議会は議決で不穏当発言とみなせば、議員の発言をなかったことにすることができる。これは地方自治法に規定がなくとも合議体としての議会の性格から導かれるものである。
C 発言の取消命令の権限は議長にある。議決がなされたからといって、直ちに発言が取り消されるわけではないが、議会の意思の重みを踏まえて議長が取消しを命じたものと考えられる。
お悩みへのアプローチ
議会には「発言自由の原則」というものがあります。議会が「言論の府」であることを考えると大変重要な原則です。そうはいっても、実際には一定の制約も伴います。そもそも会議(本会議)での発言は議長の許可がなければできません。議事進行のためなどならともかく、そうでない場合には、許可を得ていない発言は「不規則発言」といわれることになります。
また、会議規則で発言の回数が制限されていたり、発言の範囲が定められていることもあるでしょう。「質疑は、同一の議題につき◯回を超えることができない」、「発言は、すべて簡明にするものとし、議題外にわたり又はその範囲を超えてはならない」。そんな規定を会議規則で目にしたことがあるはずです。審議を効率的に行うためのルールといえばそうですが、発言に対する制限ということもできます。
さらに、地方自治法132条には「議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない」とあります。133条には「侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる」とあります。裏から読めば「他の議員に侮蔑を加えるような発言をしてはならない」ということができるでしょう。こうした発言に対する制約は、議会における秩序を守るためということができます。なぜなら、これらは地方自治法の「紀律」の節に置かれている規定だからです。一定の秩序を守ることが、長い目で見れば議会での発言を守ることにもつながると考えてのことなのでしょう。ところで、地方自治法129条1項には以下のような規定があります。この規定が、いわゆる「不穏当発言」があったときの、発言取消しの根拠となっています。
◯地方自治法
第 129条 普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。
2 略
この条文では発言の取消命令ができるのは「議長」となっています。ところが、現実にはその場で議長が取り消させることは少なく、「追って速記録を調査した上で」行うことも多いものです。また、その際に議会運営委員会の意見を踏まえることもありますし、不本意さんの場合のように、議会の議決を経て行われることもあります。
ここで疑問が湧きます。こうした手続と地方自治法129条1項との関係をどう考えればいいのでしょうか? また、「この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す」という要件はどのようなことを指しているのでしょうか? こうしたことが整理されていないと、発言の取消しを命じられた議員が「もやもや」するのは当たり前です。