2019.10.10 議会運営
第46回 議決を欠いた議決事件の行為の効力はどうなる?
議会事務局実務研究会 米津孝成
お悩み(複雑な条文は苦手さん 50代 議会事務局職員)
A市の施設を利用した市民が、備品の不具合が原因でけがをしてしまいました。その後、被害者とA市との間で治療費について話し合いが進み、示談で解決することとなりました。
示談書には、被害者とA市の双方が落ち度を認めるという内容が含まれていたので、この示談は、議会の議決を必要とする「和解」に当たりますが、所管課が、本件は和解ではないと勘違いして、議決を受けずに被害者と示談をしてしまいました。
この場合、示談(和解契約)の効力はどうなるのでしょうか。また、所管課は、被害者にどう対応したらよいのでしょうか。
回答案
A 自治体内部の手続的なミスにすぎないので、有効。改めて被害者に対応しなければならないことは特にない。
B 法令で定められた重要な手続に違反するので、無効。改めて議会の議決を受ける必要がある。
C 被害者が議決事件であることを知っていたかどうかによる。知っていれば無効、知らなければ有効である。
お悩みへのアプローチ
議会が議決権に基づいて議決しなければならない事項を「議決事件」といいます。
どのような事項が議決事件に当たるのかは、地方自治法96条(以下「本条」といいます)に規定されており、また、議決事件は、本条に具体的に挙げられた事項に限られています(なお、本条1項15号、2項に規定された法令・条例に基づく議決事件を含みます)。
議決権は、議決機関である議会の本来的な権限なので、その対象を規定した本条は非常に重要な条文であって、地方自治法の中でも、議員や職員に最もよく読まれる条文の一つです。
しかし、本条は、誰でも一読してすぐに内容が理解できる条文かというと、そうでもありません。本条1項は、1号から15号までと号数が多く、中でも訴えの提起や和解について規定した12号は、二重、三重に括弧書きが挿入された複雑な構造となっていて、法文として理解する前に、そもそも日本語として正しく読み解くのにも一苦労です。
本条の内容を十分に理解しないまま、うっかり議決事件を見落としてしまった……今回のお悩みの裏には、そんな事情があったのではないでしょうか。
所管課では、被害者と示談を交わした後で、この示談が議決事件の「和解」に当たることに気づき、慌てて議会事務局に相談をしたようです。
すでに締結してしまった和解契約は、議決を欠いたことによってどのような影響を受けるのか、また、影響があるとしたら、その後どのように対処すればよいのでしょうか。