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2019.10.10 議会改革

【セミナーレポート】地域包括ケアの推進に向けて~いきがい・助け合いサミットin大阪~

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 2019年9月9日・10日と2日間にわたって大阪府立国際会議場(グランキューブ)にて、「いきがい・助け合いサミットin大阪 共生社会をつくる地域包括ケア~生活を支えあう仕組みと実践~」(主催:公益財団法人さわやか福祉財団)が行われました。
 「地域共生社会」に向けて、地域包括ケアシステムの構築が進められる中で、各地域が創意工夫を凝らし、いかに「いきがい」「助け合い」を核とした事業を行っていくか――全国から生活支援コーディネーター、共同体等地域活動関係者、自治体、民間等の幅広い関係者が一堂に会し、この問いに対して様々なアプローチから討議が繰り広げられました。
 サミットは、全体シンポジウム、54ある分科会、ポスターセッション、最後に全体発表会で構成され、シンポジウムや分科会には各分野の第一線の研究者・実務家がパネリストとして熱い議論が繰り広げられました。今回、編集部が参加した2日目の2つの分科会を中心に紹介します。
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「断らない福祉」

 生活困窮者自立支援法が制定されて4年が経った現在でもゴミ屋敷、引きこもり、8050問題、子どもの貧困等、制度の狭間にあり解決困難な課題が社会問題としてクローズアップされています。第2部パネル・分科会22「生活困窮の人が地域の人々とともに生きる地域をどうつくるか」では、こうした問題に対して「断らない福祉」を掲げ、地域と一丸となって取り組んでいる豊中市社会福祉協議会を中心とした地域の事例や、釧路市音別町の音別ふき蕗団の中間的就労に関する取組みが紹介されました。
 進行役の豊中市社会福祉協議会福祉推進室長の勝部麗子氏が、はじめに地域共生社会の新たなステージとして4つの基本的な視点――①SOSが出せない人にこそ支援の手が届くよう一人も取りこぼさないこと、②解決困難な課題を抱えた人に対する排除から包摂へのシフト、③支えられた人が支える人になる仕組みづくり、④すべての人に居場所と役割があること――を示しました。福祉とはこの4つを支えるためにあり、勝部氏は、それを「丸ごと福祉」「断らない福祉」と表現しました。
 豊中市では、小学校区ごとに「校区福祉委員会」を設置し、そこが地域住民の活動の中心となり、「福祉なんでも相談窓口」を通じてゴミ屋敷等の問題を把握し地域住民と共に解決を図っていす。また、その取組みを社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーが専門的観点からサポートしています。この豊中市社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーの取組みは2004年から市の地域福祉計画に位置付けられています。
 登壇した校区委員会のパネリストの方々は、子ども食堂において不登校の子供の居場所づくりをどのようにして創出したのか、これまで関わった困難事例と課題解決へのプロセスを紹介しました。また、新聞販売所の中村龍男氏は、豊中市社協が進める「豊中びーのびーのプロジェクト」において、ひきこもり状態だったひとの就労体験の場を提供する取組みを紹介しました。ひきこもりの若者が一方的に支援を受けるのではなく、働くことで社会の役に立っているという意識を持ち、それが自信につながり他人とのコミュニケーションもとれるようになる経験は世の中に出る一歩と位置づけています。就労体験では、新聞販売所のポスティングの作業を月2回程度から行ってもらい徐々に作業を増やし、今では正社員として働いている人もいるということです。中村氏はこうした地域の取組みを行うことで、現在、ひきこもり支援相談士の資格取得に向けて勉強しており、資格が取得できたら就労支援という形以外に違う形で課題を抱えた若者と関わっていきたいと語っていたことが印象的でした。
 勝部氏は豊中市社協の取組みの根底に流れる様々な言葉を述べていました。

 「地域の困った問題は社会参加の種」
 「困った人は困った問題を抱えている。そこに手を差し伸べる。なぜ困っているのか、もう一歩踏み込む。」
 「知ることによって優しさが生まれる。」
 これらの地域福祉を貫く普遍的な勝部氏の言葉が、豊中市で実際に具現化されており、それは地域共生社会の新たなステージにおける先進的な取組みと思われます。

地域包括支援センターの役割

 第3部パネル・分科会35では「地域包括支援センターは総合事業・体制整備事業にどこまで関わるのが望ましいのか」と題して、地域包括支援センターが求められる役割と、各地の先進的な事例について報告がありました。厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制として「地域包括ケアシステム」の構築の実現を掲げています。
 はじめに東京学芸大学教育学部教授の髙良麻子氏が、現在の地域包括支援センターをめぐる状況について概説した後に、社会福祉法人武蔵村山市社会福祉協議会南部地域包括支援センターの岡村美花氏、松前町保健福祉部健康課地域包括支援センター係の平井栄理子氏、佐々町住民福祉課地域包括支援センターの江田佳子氏が各地域の事例を紹介し、厚生労働省老健局振興課課長補佐の櫻井宏充氏が国の政策とその考え方について解説しました。
 武蔵村山市地域包括支援センターの岡村氏からは、介護予防を目的とした脳トレや体操等を行う場として高齢者が歩いて通える「お互いさまサロン」の展開について事例報告がありました。この事業が特徴的なのは、参加者がお客様ではなく「担い手」となり、全員が総当番制で役割を持ってサロン運営に携わる仕組みを構築していることです。参加している高齢者からはお客様ではないので、「やりたいことを提案できてうれしい」という声が聞かれるようになったということです。「お互いさまサロン」の会場は、自治会館、幼稚園・保育園、介護関連施設のほか、銭湯やイオンやダイエーの店舗を活用しており、現在では43か所展開され、そのうち地域包括支援センター主催は2ヵ所ということです。参加者全員が役割を持って積極的にかかわる仕組みそのものが、結果的に介護予防の推進につながっているように思われます。
 次に、松前町地域包括支援センターの平井氏からは、町が掲げる「『お互い様』の意識で助け合い・支え合える愛顔(えがお)あふれる松前町に」というスローガンをもとに高齢者のニーズ把握と住民主体の助け合い活動について報告がありました。担い手育成等の試行錯誤を経て、地域情報を共有するネットワークの基盤(協議体)構築に重点を置き、行政直営で運営されている地域包括支援センターの担当者が勉強会等を重ね、地域の「困りごと」と「できそうなこと」を繋げる仕組みが構築しつつあります。印象的だったのは、こうした取組みを要支援者サービスの「受け皿づくり」とすることではなく、真の町づくりとして高齢者と地域社会との関係の維持・回復を図る取組みと位置付けていることでした。今後の体制整備が期待されます。
 次に、佐々町の江田氏からは、増加する介護保険料を指摘した上で「佐々町住民の保険料が必要な人に適切に使われているか、現在のサービスは権利尊重だけのサービス支援になっていないか」という点を改めて問い直し、「できない事の支援」ではなく「できている事の継続や改善可能な部分の支援」をし、介護保険制度だけではなく、自立となった後も不安なく在宅で過ごせるための地域支援体制の整備を行っている事例の報告がありました。具体的には、新規の介護認定の申請があった際に、聞き取りを徹底し、介護サービスが即必要であるか、介護予防事業やインフォーマルサービス等が必要であるかを見極め、後者であれば地域包括支援センターにつなぎ訪問し、介護予防事業へと展開させるという事業を行っており、申請における事前点検の徹底を行っています。また、介護認定者で介護保険のサービスを利用していない住民が2割ほどいて、その住民に訪問を行うなど、これまで顕在化していなかった課題の掘り起こしについて紹介しました。その他、「いきがい教室」や「はつらつ塾」等の通いの場として様々なメニューを用意したり、他機関連携を行ったりと介護予防事業を充実させ、結果的に平成21年からは佐々町の介護認定率が減少したことを報告しました。住民と行政が一緒になって介護予防に取り組んだ結果、成功している事例ではないかと思います。
 三人の事例報告をふまえて厚生労働省の櫻井氏は、「地域包括支援センターと生活支援体制整備事業等に関する制度の概要と現状について」というスライドに沿って、地域包括支援センターの制度的な位置づけと求められる役割について解説がありました。その中で、櫻井氏は、国から各地域包括支援センターごとの人員体制やセンター間の役割分担・連携の明確化、PDCAの充実等による機能強化が言われているが、地域で行う様々な生活支援体制整備事業が結果的にセンターの強化という側面も持っており、うまく事業を活用してほしいことを強調しました。

来年の名古屋大会に向けて

 サミット最後の「全体発表会」では、参加者全員が一堂に会して、54すべての分科会で行われた議論の結果としてまとまった提言を報告しました。来年、名古屋市で開催される同大会では、今回のサミットと同様の分科会のテーマを掲げることで、今回の提言に対して1年間でどのような取組み・進捗があったのか、継続して捉えなおす場となります。今回のサミットでは、多くの関係者が地域で支え合う仕組みづくりについて議論する場となり、共生社会に向けた地域包括ケアの実践がまとまった形で相対的に可視化された機会になりました。来年も各地の実践的取組みを様々な視点から議論し高め合う場として期待されます。来年は2020年9月29日(火)~30日(水)愛知県名古屋市で開催の予定です。

◆「いきがい・助け合いサミットin大阪 共生社会をつくる地域包括ケア~生活を支えあう仕組みと実践~」(主催:公益財団法人さわやか福祉財団)HP
https://www.sawayakazaidan.or.jp/summit/osaka/
 

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