地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2019.08.27 政策研究

二元代表制論を超えて

LINEで送る

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 前回まで、拙著『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、2019年)について、「トリセツ」という題名を決めるまでの経緯について触れたところである。今回からは、「トリセツ」でいいたかったことの要点を、かいつまんで説明してみよう。もっとも、説明しすぎると、拙著『トリセツ』を買うまでもないということになりかねないので、なかなか厄介なところはある。だから、拙著『トリセツ』では明示的には書いていないタネ明かしをしよう。

二元代表制という学術用語

 地方自治の教科書・テキストや学術研究書においても、「二元代表制」という用語が使われることが多くなってきた。その意味では、実証研究における学術用語である。難しい表現では、「講学上の概念」ともいう。政治運動とは切り離された、一種の「中立」的な記述・分析用語というわけである。「講学上」というのは、実は、憲法にも地方自治法にも、二元代表制などという成文法上の法律用語は存在しないからである。法制度上は客観的にも存在しない用語を生み出すことは自由であるが、しかし、その用語は政治的実践とは関係がないというスタイルである。
 この場合の二元代表制というのは、要するに、住民が首長と議員とを別々に選挙しているという制度だということにすぎない。選挙で選ばれる人間を、代表制民主主義のもとでは普通に「代表」と呼ぶであろうから、二タイプの代表がいるということである。その限りでは、制度の忠実な記述であろう。
 そして、二元代表制は一元代表制と対比される。つまり、住民は議員だけを選挙し、集まった議員の多数派が首長を選出するのであれば、首長は住民から直接に選挙されるわけではない。選挙されるのは代表であり、選挙されないのは代表ではないならば、一元代表制のもとでは首長は代表ではないことになる。とはいえ、議員の中から首長が選出されるのであれば、首長たる議員も代表である。首長間接公選制と呼ぶこともある。

二元代表制の不思議

 以上のように、普通に使われる二元代表制という学術用語であるが、精確に使わないといろいろ問題をはらむこともある。
 第1に、二元代表制とは、二つの異なったタイプの代表がいるということだけならば、いささか乱雑な概念である。例えば、議会のうち、一定数の議員は全域から選出され、残りの議員は区割された選挙区ごとに選出されるのであれば、二つの異なったタイプの議員がいることになる。こうした状態は、二元代表制なのだろうか。決して空想ではない。アメリカの都市では、ときどき見られる。また、日本でも国政では、例えば衆議院は、定数1の小選挙区から選出される議員(289人)と、定数6~28のブロック別比例区から選出される議員(176人)と、2タイプいる。参議院でも、かつては全国区・地方区という2タイプであり、現在は、比例代表区(100人)と選挙区(合区された鳥取・島根及び徳島・高知を除き、原則、都道府県単位、148人)という2タイプである。さらにいえば、参議院の選挙区は、定数が1人の小選挙区もあれば、2~6人の中選挙区もある。この場合、定数が異なれば選挙のタイプは違うのであるから、何タイプもの議員から構成される。しかし、衆議院も参議院も二元代表制とは呼ばれない。要するに、普通に意味している二元代表制は、単に異なったタイプの代表がいるということだけではないのである。
 そこで、第2に、二元代表制は、異なったタイプの代表が、異なった権限を持つこととセットになっていることを意味している。つまり、議員と首長は権限が違う。しかし、議員も首長も、住民から選挙されるという意味では代表である。その意味で二元である、というわけなのであろう。上述の衆議院・参議院のように、それぞれの院内には、異なったタイプの代表はいるにしても、各議員は同じ権限を持つので、二元ではないといえる。もっとも、こうなると、直ちにおかしなことになる。衆議院と参議院は異なる権限を持っている。それゆえ、衆議院と参議院という二院制は、二元代表制というべきである。しかし、講学的には、そのような用法は普通ではない。
 第3に、結局のところ、二元代表制とは、執行権限を持った人物が住民から直接に選挙される、ということをいいたいだけなのである。ならば、直裁に、首長直接公選制とか首長制とか大統領制とか呼べばよいはずである。国政でも、首相を国民から直接に選挙する仕組みは、首相公選制と呼ばれ、二元代表制とは呼ばれない。それをわざわざ二元代表制というのは、誠に不思議な現象である。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る