2019.03.25 議会運営
第64回 出席催告の取扱い
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
出席催告の取扱い
A市議会において議長に対する議長不信任決議案が賛成多数で可決された。しかし、議長が議長不信任決議の可決には法的効力はないとして辞任せず、引き続き議事日程に従って議事を進めようとした。そのため、議長不信任決議案に賛成した議員が議場から退席し始め、出席議員が半数に満たなくなったため、議長が休憩を宣告した。この事態を打開するために議長がとりうる方法はどのようなものが考えられるか。
議長に対する不信任決議は地方自治法(以下「法」という)178条における長に対する不信任決議と異なり、法律上のものではなく、事実上のものであるため、可決されても議長の職を失職させる法的な効果はない。
そのため、議長不信任決議案が可決されても、議長職を自ら辞することなくそのまま議長職にとどまり、議事運営をつかさどることは可能である。しかし、この議長のもとでは議事運営に協力することはできないとの意思表示である議長不信任決議案に賛成した議員は、議場から退席することが多い。
この場合、法113条本文により議員定数の半数以上が本会議に出席しないと会議を開くことができないため、標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)12条3項により議長は休憩又は延会の宣告をする必要がある。
【法113条】
普通地方公共団体の議会は、議員の定数の半数以上の議員が出席しなければ、会議を開くことができない。
【市会議規則12条】
③ 会議中定足数を欠くに至ったときは、議長は、休憩又は延会を宣告する。
なお、議長不信任決議案に賛成した議員が退席して定足数を欠いた場合に、休憩又は延会のどちらを宣告するかは、定足数が欠けた後に、定足数を満たすための手段を議長が講じれば定足数が得られるとの見込みの場合には休憩とし、定足数を満たすための手段を議長が講じても定足数を得られる見込みがないと考えられる場合には延会を宣告するものである。
本問において議長は休憩を宣告したので、何らかの手段を講じれば議長は定足数を得られる見込みがあると考えたといえる。
この状況において議長がとりうる手法は、次の2通りが考えられる。
すなわち、①不信任決議案を可決された議長が翻意し、議長職を辞職し、新議長のもとで正常な議事運営を進めること、②法113条ただし書の規定による「招集に応じても出席議員が定数を欠き議長において出席を催告してもなお半数に達しないとき」に該当するとして出席催告を行い、定足数の例外として会議を開催し議事を進めること。
【法113条】
但し、第117条の規定による除斥のため半数に達しないとき、同一の事件につき再度招集してもなお半数に達しないとき、又は招集に応じても出席議員が定数を欠き議長において出席を催告してもなお半数に達しないとき若しくは半数に達してもその後半数に達しなくなったときは、この限りでない。
①は議長が良識を発揮し、議会の過半数の支持を受けられないなら議長を辞職することによって正常化を図ることである。これが、議長として今後の議会運営を考える上でのベターな選択であるといえる。
②を議長が選択すると、議長による出席催告がなされ、定足数の例外として会議を開き、その後の議事が進められることとなる。
出席催告は市会議規則13条に基づき、応招議員が半数以上いるが、会議に出席する議員が半数に達しないため、議長が応招した議員に対し会議への出席を催告することをいう。
【市会議規則13条】
法第113条の規定による出席催告の方法は、議事堂に現在する議員又は議員の住所(別に宿所又は連絡所の届出をした者については、当該届出の宿所又は連絡所)に、文書又は口頭をもって行なう。
議長による出席催告がなされれば、催告後、出席議員が半数に達しなくても、議長は定足数を必要とせず、会議を開くことができる。
出席催告の対象となる議員は、行政実例昭和25.10.19のとおり、出席催告をする日までに応招した議員すべてである。
○出席催告と催告の対象(行政実例昭和25.10.19)
問 出席催告の制度は、その日の会議が一たん成立した後、会議中途で一部議員が退席して定足数を欠くに至った場合、当日の出席議員に対してこれを行なうものと解するか。又は会期の第1日において会議は成立したが第2日目以降において出席議員が定足数を欠いたときも、第1日出席議員を対象として催告をなしうると解するか。若し後者を不当であると解すれば、会期中会議を成立させるべき救済手段が他にないように思われるが、立法論としてこの点をいかに考えられるか。
答 当日までに応招した議員に対して行うものと解される。
ちなみに、法における応招とは、出席催告の行われる日の会議の招集に応じたことに限定されず、当該会期の招集に応じたことをいう。また、出席催告の対象議員には、法117条の除斥対象議員や欠席議員も原則として含まれるが、出席停止の懲罰を受けている議員は出席催告の対象とならない。なお、出席催告は対象となる議員すべてに行う必要があるため、出席催告漏れが1人でもあった場合、出席催告の効力は生じず、当該出席催告においてなされた議決は無効となる点については留意を要する。
出席催告の方法は、①議事堂に出席催告の対象となる議員がいればその議員に直接口頭により又は文書によって出席催告をする、②議事堂に出席催告の対象となる議員がいなければ、議員の住所(別に宿所又は連絡所の届出をしたものについては当該場所)に文書又は口頭により出席催告をする必要がある。なお、対象となる議員の住所等に議員本人がいない場合は、事柄の内容を理解できる同居人に出席催告を行えば足りる。
次に、出席催告はその日その日の会議に適用されるため、出席催告における開議の時刻は、出席催告がなされた当日に定めなければならず、翌日に開議時刻を定めたとしても無効である。そして出席催告後の開議時刻は、出席催告を受けたすべての議員が出席しうると認められる時間の余裕をもって定める必要がある。
出席催告により開催された会議で途中休憩があった場合でも、出席催告の効力は休憩によって中断されない。
出席催告の手続は非常に厳格な手続が求められるので、催告漏れ等がないように留意しながら出席催告による議事運営を議長が行っていくことが考えられる。
ただし、出席催告は定足数に満たない場合の例外としてやむを得ない場合に行使すべきものであり、議会内での感情的な対立等による混乱において乱用すべきものではないことを付け加えておく。