2019.01.15 政策研究
前文に思いを込めた条例のうれしい誤算
元日本経済新聞論説委員 井上繁
人吉をふるさとだと思っていただいているすべての方々に伝えたい。
ふるさとはあなたの思い出のとおり、今も青い山々と翠(みどり)なす球磨川のきらめきの中で春夏秋冬を優しく刻んでいます。
あの春の日、大きな夢と少しの不安を抱いて旅立った人吉駅のプラットホームは、昔と同じ官製(昭和)の匂いがかすかに残ったまま新生SLを迎え、秋空に響き渡るおくんち祭りの青井さんは国宝になりました。
線路の遙か向こうに憧れを追いかけていたあの頃、小さな幸せが子どもたちのポケットからこぼれ落ちそうで、また、悲しみさえも持ち寄り、支え合う場所があったような気がします。
今、人吉は笑顔のまちづくりに取り組んでいます。時代が変わっても誠実に生きることが報われるまちであることを目指して。
いつまでも人吉の応援団としてお見守りください。
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これは熊本県人吉市の「子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例」という長い名前の条例の前文である。青井さんは、人吉駅近くの青井阿蘇神社である。条例は、ふるさと納税の根拠となる地方税法等改正案が国会で成立した2008年度に、制定、施行された。施行10年目の2017年度の寄附件数は前年度比3.8倍で6,049件、寄附額は4.9倍で1億6,669万円となり、1億円を大きく突破した。