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2018.12.25 議会運営

99回も議長選挙を繰り返した与那国町議会

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東京大学名誉教授 大森彌

 日本最西端の沖縄県与那国町の議会で「珍事」が起き、町議場には県内外からメディアが殺到して全国的な注目を浴びることになった。皮肉なことに、これよって与那国町の知名度は高まったかもしれない。しかし、この出来事は、いかに二元的代表制が機能していないかをあぶり出したともいえる。

  2018年9月に行われた与那国町の議会議員選挙では、10人の定員に対し、与野党が半数ずつを分け合う結果となった。議長選挙が行われたが、1か月近くにわたって議長が決まらず、議案の審議ができない異例の事態となった。
事の成り行きは単純であった。定数10人の議員が、「与党議員」と「野党議員」に真っ二つに分かれ、議長を相手に押し付けようと妥協することなく対立を続けたのである。「与野党」とも、議会審議で採決に加わらない議長を出すと少数派になるため、議長選挙では「与党」側は「野党議員」、「野党」側は「与党議員」に投票し、5票ずつの同数となり、くじ引きが行われたが、当選者が辞退することが18回も繰り返された。
 やっと、10月31日、99回目の議長選で「与党」側の議員が全会一致で新しい議長に選出され、議長就任を受諾し、事態はひとまず収拾された。新聞の地元紙、全国紙、テレビ番組の報道から、この間の経緯を見ると、いくつかの見過ごせない実態が浮き彫りになったと思われる。

  ① 町議会は、2016年9月の定例会で、議員定数を6人から10人に増やす条例改正案を可決している。それまで6人の議員は「与党」派3人、「野党」派3人に分かれていたが、2014年の議長選挙で「野党」のS議員と「与党」のI議員が3票の同数となり、2回目の投票で当選くじを引いたI議員が議長を受諾している。その結果、議会は「野党」多数となったが、I議員はそれを承知で慣例に従って議長を引き受けたとされている。
 町の人口は2015年に1,489人にまで落ち込んだが、自衛隊沿岸監視部隊の配備に伴い、2016年7月末時点で1,702人にまで増えていた。この人口増や財政の持ち直しなどを背景として、「野党」議員が「時代や社会の変化に的確に対応し、民意を反映したチェック機能を果たすために必要だ」とし、改正案を提出したのである。
 「与党」議員の2人は、全員協議会で「定数拡大はやぶさかではないが、町民の合意が得られていない。時期尚早」、「8人か10人がいいのか議論されていない」などと慎重な対応を求めたが、折り合いがつかなかったため採決時に退席している。そこで、条例案は「野党」議員3人による全会一致で可決された(『八重山毎日新聞』2016年9月14日付)。議員定数の改正という重要な議案を名ばかりの「全会一致」で成立させている。
 比較的小規模な町村議会で一度減らした議員定数を増やしたこと自体が珍しい。2017年8月に行われた議員選挙には、現職6人と新人6人、計12人が出馬し、当選者は「与党」5人、「野党」5人の折半となった。所属政党別では、自民党4人、無所属6人であるが、無所属の1人が自民党議員と組んで5人の「与党」を形成している。5対5は選挙における民意の審判である。それを受けて、両派の議員がいかに合意をつくり出すかが問われたはずであった。しかし、「与野党」が半数ずつを分け合ったことが議長選挙におけるのっぴきならない対立に直結してしまった。

 ② 現地でも、マスコミの報道でも、当然のように「与野党」という言葉が使われている。これは直接的には町長との関係を表している。これに沖縄の政治風土を反映した「保守」対「革新」が重なっている。「野党」議員は「独善的な町政を続けさせないためにも譲らない」とし、「与党」議員は「否決ばかりする野党が過半数になれば町政が進まない」と対峙(たいじ)した。
 2017年8月6日に行われた町長選では、現職の外間守吉氏が、自民党公認・公明党推薦で4選を果たした。対立候補は前町議会議長の保守系新人で、いわば保守分裂の町長選挙となった。町議会勢力は「野党」4人、「与党」2人で、町長にとっては「少数与党」となり、厳しい町政運営を強いられていた。町長は2017年12月の本会議に、6月から不在が続いていた教育長と新たな要職となる副町長の人事案件を提出した。教育長には9月定例会に続いてS氏を、副町長にK氏を提案したが、賛成少数で否決された。「野党」は、いずれかのポストに野党側が推す人物を登用するよう町長に水面下で求めたが、互いに譲らず折り合いはつかなかったという(『八重山毎日新聞』2017年12月16日付)。

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