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2018.10.10 政策研究

第1回 なぜ自治体議会は計画の適正な決定をなし得ず、計画実行の適正な制御もなし得ないのか

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大和大学政治経済学部准教授 田中富雄

1 計画への関心が高まる自治体議会

 改革度のランキングが成立することからも分かるように、自治体議会ごとに議会改革の進捗にはバラツキがあります。しかし、議会改革は確実に進んでいます。そして、議会が政策にいかにかかわるべきかという政策議会についての関心も高まっています。本連載では、政策集である計画を取り上げますが、議会が政策についての関心を高めていることは、議会が計画への関心を高めていると見ることもできます。
 計画については、画餅であるとの批判もありますが、従来から先駆的な計画行政に取り組んできた武蔵野市や多治見市のように、計画に基づく政策運営を進め、成果を上げている自治体もあります。議会に目を転じれば、大津市議会が導入したことで広く知られるミッションロードマップも「議会版実行計画」という計画です。
 そもそも、議会は、2011年の地方自治法改正前には、基本構想についての議決権を持ち、自治体の計画に大きくかかわってきました。現在も自治基本条例、議会基本条例、総合計画条例などにおいて、基本構想を議決の対象としている自治体は多くあります。総合計画の基本計画や当該自治体における部門別での基本となる計画(中間計画)についても議決の対象とする自治体が増えています。
 一般質問における議論が、その後策定される計画の内容に反映されることも少なくありません。提案された議案としての計画案については、質疑し、討論し、採決することになりますが、そこでは積極的な議論が交わされ、計画案が修正されることもあります。もちろん、議会によりその状況は異なるのでしょうが……。

2 議会に求められる計画の適正な決定と計画実行の適正な制御

 自治体が地域にとって必要な計画を決定し(不要な計画を策定しないことの決定を含む)、決定された計画を実行するのであれば、議会には計画の適正な決定と計画実行の適正な制御が求められます。しかし、二元代表制という日本の自治制度を前提としていながら、なぜ議会は計画の適正な決定と計画実行の適正な制御がなし得ないのでしょうか。

3 なぜ議会は計画の適正な決定と計画実行の適正な制御ができないのか①(関係者の多様性)

 自治体には、いくつかのサイクルがあります。4年に一度の選挙というサイクル、予算や決算という1年ごとのサイクル、複数年にわたることの多い計画、数年に一度は再編されることの多い組織機構、数年ごとに職場が変わる職員の人事異動のサイクルなどが代表的なものです。
 そこには、「この地域(グループ・政党)から2人の候補者が立つと共倒れになるので、○○さんは立候補を諦めてください」、「立候補するなら○○としてあなたを処分します」など、公選職を目指す者と関係者の間においては鎬(しのぎ)を削る戦いが起こりえます。行政の内部においては、「あの有能な職員を我が部局に獲得したい」、「あと5人、我が部局の職員を増やしたい」、「あと3億円、我が部局の予算を増やしたい」、「従来、別の部局で担当していた我が市の目玉事業を、我が部局の所管にしたい」、「市の重要会議に、我が部局も定例的に参加し、トップ・マネジメントにかかわる情報を常時入手できるようにしたい」、「市の重要計画に我が部局の政策を位置付けたい」などの声がよく聞かれます。行政内部における職員・財源・権限・情報などの政策資源を獲得する戦いです。
 このような、選挙にかかわる戦いや行政内部における戦いにおいては、関係者間で納得が得られることになればよいのでしょうが、なかなかそうならない現実があります。そして、計画の決定や実行には多数の人間がかかわります。そのため、政策の決定や実行には困難が伴います。政策集としての計画にも同様の困難が伴うことになります。
 市民の多様性を自治体の計画に反映するためには、計画の決定者であり計画の実行を制御する議会の構成員である議員が、市民の属性を反映していることが期待されます。しかし、選挙という戦いの後の結果はどうでしょうか。また、福祉などの再配分政策に典型として表れるように、市民の間にも選出された公選職の間にも、どのような政策を計画に位置付けるかについては議論の分かれることがあります。これもあまり使いたくはない言葉ですが、戦いと呼ぶことができるでしょう。
 これまで見てきたような戦いの状況が存在すれば、計画の決定や計画実行の制御について困難さが増すことになります。また、1人の人間には能力の限界があります。そのため、計画にはその決定と実行を多数で行うことが求められ、「関係者の多様性」が必然となります。計画の実行により影響を受ける関係者も広く多数にわたります。そこにも、「関係者の多様性」があります。
 計画には「関係者の多様性」があるため、議会は計画の適正な決定と計画実行の適正な制御ができない状況に陥るのです。

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