2015.01.10 議会運営
第39回 法人への現金による貸付けにおける議決の是非/請願と一時不再議
法人への現金による貸付けにおける議決の是非
市が法人に対しその業務内容を評価したことから当該法人に対し現金での貸付けを行うこととする場合に、地方自治法96条1項6号に基づく議決を得る必要があるのか。
地方自治法(以下「法」という)96条1項6号で地方公共団体が「条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付ける」場合には議会の議決を要すると規定している。
【法96条】
① 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
6 条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。
この法96条1項6号は法149条6号に規定された財産の取得・管理・処分のうちの一定事項に係る事項について、地方公共団体の財産に重要な影響を及ぼす行為であると考えられたため、議会の議決事項とされたものと解される。
【法149条】
普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。
6 財産を取得し、管理し、及び処分すること。
そして法96条1項6号における財産とは、法237条における財産を指し、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。
ここで本問におけるように地方公共団体が現金を当該法人に貸し付けるとした場合、法96条1項6号における「条例で定める場合を除くほか、財産を適正な対価なくして貸し付けること」に該当するかどうかが問題となる。
そもそも「貸付け」とは、債権契約によるもののみでなく、物権契約による使用関係も含むものと解される。つまり、地方公共団体の財産を、総計予算主義の原則に反するような処分及び適正な対価なくして処分し、又は利用させる行為を制限しようとする趣旨であるから、「貸付け」には、債権契約も物権契約のどちらも含み、それらを適正な対価なくして利用させる全ての行為を含むといえる。
そして、適正な対価かどうかとは一般的に時価での判断をいい、その認定は当該地方公共団体の長が判断することとなる。ただし、その判断には客観性が必要とされることに留意を要する。
これらから、本問においては地方公共団体が法人の業務内容を単に評価したことにより貸付けを行うため、貸付けに当たっての適正な対価はない状況であるといえる。
次に現金が法96条1項6号の財産に該当するかどうかであるが、法96条1項6号にいう財産は先述したとおり、公有財産、物品及び債権並びに基金であるが、法238条1項及び法239条1項に規定のとおり現金は公有財産及び物品の中に含まれておらず、当然債権でも基金でもない。
【法238条】
① この法律において「公有財産」とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
1 不動産
2 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
3 前2号に掲げる不動産及び動産の従物
4 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
5 特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これらに準ずる権利
6 株式、社債(特別の法律により設立された法人の発行する債券に表示されるべき権利を含み、短期社債等を除く。)、地方債及び国債その他これらに準ずる権利
7 出資による権利
8 財産の信託の受益権
【法239条】
① この法律において「物品」とは、普通地方公共団体の所有に属する動産で次の各号に掲げるもの以外のもの及び普通地方公共団体が使用のために保管する動産(政令で定める動産を除く。)をいう。
1 現金(現金に代えて納付される証券を含む。)
2 公有財産に属するもの
3 基金に属するもの
それゆえ、本問のように当該貸付けが現金で行われる場合は、法96条1項2号による予算の議決により措置すれば足り、法96条1項6号の議決を必要としないと解される。
請願と一事不再議
住民より過剰米処理に関する請願が提出された後、引き続いて他の請願者より先に提出された過剰米処理に反対する請願が提出され、先の請願が採択された場合、一事不再議により後に提出された請願はみなし不採択となるのか。
一事不再議の原則とは、議会において一度議決した事件については、特別の場合を除き同一会期中において再度審議することができないことをいう。
なお、特別の場合とは法176条及び法177条における再議等の法律に特別の規定がある場合と、事情変更の原則により再審査や再付託を行う場合をいう。
ちなみに一事不再議の「議」は審議を指すのではなく、議決を指すため、同一会期中に議決された案件と一事に該当する案件が提出されても、一事不再議により議決はできないが審議は可能であると解される。
なお、一事不再議は標準市議会会議規則15条に規定がある。
【標準市議会会議規則15条】
議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない。
次に、一事に該当するかどうかは個々具体的に判断する必要があるが、具体例として①議会において議決された案件と同一形式、同一内容の案件である場合、②同一形式で内容が対案関係にある案件である場合、③議会において否決された案件の一部を改めて同一会期中に単独のものとして提出した案件の場合等が挙げられる。
本問において提出された2つの請願が一事に該当するかどうかであるが、②の同一形式で内容が対案関係にある案件である場合に該当するといえる。
しかし、案件によって一事不再議には適用にならない場合がある。すなわち、①法74条に基づく直接請求による条例の制定改廃、②法176条及び法177条に基づいた再議、③請願及び陳情、④議事進行の動議、⑤事情変更、⑥議会運営委員会又は議会において別個のものとみなす旨議決した複数の修正案、⑦同一内容である意見書と決議のように形式の異なる議案が挙げられる。
本問では対案関係にある請願であることから、③が該当するため一事不再議は該当せず、それぞれの請願に対して採択を諮ることは可能であると解する。
ただし、議事能率の観点から1つの請願を採択することにより他の対案関係による請願をみなし不採択とすることまで禁じられているわけではないことから、本問における取扱いをすることも可能であると解される。