2014.09.10 議会運営
第37回 議長の発言取消命令について
議長の発言取消命令について
定例会の本会議において議員の発言中不穏当発言と思われる発言があったが、その日の会議では何ら措置をせず、会議終了後に開催した議会運営委員会で当該発言が不穏当であるとの協議結果となった。それゆえ、翌日に当該議員に対し議長が議会運営委員会の協議結果に基づき発言の取消勧告を行ったが、当該議員が発言を取り消す考えがない旨を伝えられた。その場合における議長としての取扱いはどうあるべきか。
発言の取消しとは、標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)65条に規定のとおり発言の趣旨の変更を伴うものをいう。これに対して発言の訂正とは、原稿の読み違いや見誤り等による発言に対する字句の変更をいい、当該発言の趣旨の変更まで行うことはできないものである。
発言の取消し及び訂正は、会期独立の原則により当該発言が行われた会期中に限定される。それゆえ、当該会期が終了した場合、発言の取消し及び訂正を行うことはできない。
【市会議規則65条】(発言の取消し又は訂正)
発言した議員は、その会期中に限り、議会の許可を得て発言を取り消し又は議長の許可を得て発言の訂正をすることができる。ただし、発言の訂正は、字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することはできない。
ここで発言取消し及び訂正が可能な期間を超えた場合の発言の取消し又は訂正に関する措置として考えられるのは、次の定例会又は臨時会の冒頭に議長の諸報告により当該発言者より発言の取消し又は訂正に関する申出があった旨の報告を行い、それを会議録に残すことにより事実上の効力を生じさせようとする手法があるが、法的な訂正又は取消しの効果は生じず、事実上のものであることに留意を要する。
次に、議員が本会議においてなした発言が不穏当発言であるかを考えるに当たっての基準であるが、法規上基準は特になく、各議会における発言がなされた状況等の様々な事象により考える必要が生じる。
ただし、一般的な不穏当発言の基準としては、①相手の立場になって聞いたならば不快感を覚える発言であること、②事実と異なる発言、根拠が不明確な発言は不穏当であること、③個人のプライバシーや基本的人権に抵触するような発言であることが挙げられる。
ここで、本問におけるように不穏当の発言者と議長やその他の議員との間で、発言に対する不穏当かどうかの判断が異なるときは、例えば議長が発言の取消しが必要であると考えるのに発言者は取消しの必要がないと考える場合の取扱いを考える必要が生じる。
議員がなした不穏当発言等の発言の措置に関する方法は、大きく分けて3つある。
すなわち、①発言者自身による発言の取消しを行う場合、②地方自治法(以下「法」という)129条1項に基づく議長の秩序維持権による取消命令又は取消留保の宣告の場合、③他の議員による発言取消しを要求する動議の場合である。
本問においては、①の発言者自身による発言の取消申出はする必要がないと発言者自身が考えていることから、発言の取消申出に対する議会の許可により措置することは難しい。それゆえ②又は③の方法を考える必要がある。
なお、③の他の議員による発言取消しを要求する動議であるが、この動議が可決されても事実行為であるため発言取消しという法的効果を生じない。しかしながら、取消しを求める議会の意思が確定していることから、議長に対し政治的効果がある。このため議長が取消命令又は取消留保の宣告をする必要があり、最終的には②と同様の取扱いになるためまとめて考える。
議長は法129条に基づき議会における秩序維持権のひとつとして、会議中に地方自治法又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す発言をした議員に対し、議長が当該発言を取り消させる命令を行うことができる。
この発言取消命令の効果は、議員がした発言を取り消すことを命ずることであって、議長が当該議員に代わって発言を取り消すものではない。それゆえ、発言をした議員が議長の発言取消命令に従って発言の取消しを申し出、議会の許可を得なければ発言取消しの効果が生じないことに留意が必要である。
本問のように、議員が不穏当発言をしたが、その発言をした会議中には議長は発言の取消命令を行わず、翌日以降に発言取消命令をすることができるかどうか問題がある。
確かに、法129条における議長の発言取消命令は、会議中における法令違反やその他の秩序違反等の発言により混乱している状況を円滑ならしめるための議長の秩序維持権として認められているものであると解されることから、その状況下において発言取消命令を行うことが求められているといえる。
ゆえに、議長の発言取消命令の対象となる発言がなされた会議以降に発言取消命令を行うことはできないとする考えがある。しかし、発言の取消申出については市会議規則65条のとおり当該会期中認められていること、また議長の秩序維持権は会期中有効に継続するものであることから、会議終了後においても当該会期中は議長が発言取消命令を行うことは可能である。
【法129条】(議場の秩序維持)
普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。
ちなみに議員が行った不穏当発言に対し、議長が発言取消命令を出すに当たり、一字一句発言箇所を特定し述べる必要があるか疑義が生じるが、議長が取消発言を一字一句述べることは不穏当発言を本会議において再度述べることとなり適当でないため、議会運営委員会で取消箇所を特定するが、会議において不穏当発言を直接述べず当該発言部分の指定を行うことにより処理するのが適当である。
また、不穏当発言に対し議長が発言の取消命令をした場合、当該取消発言を他の議員又は執行機関が引用した場合の発言の取扱いをどうすべきか疑義が生じる。当該引用発言を取り消さずに残しておくと発言取消しの効果が生じないため、議長の発言取消権により引用発言について適当な措置を講ずる旨を述べ引用発言を取り消す措置をとるのが適当である。
ところで、議員が発言した内容が客観的に見て明らかに不穏当であると判断できるものであれば議長は直ちに発言取消命令をなすが、その内容が不穏当に該当するか否か判断が困難で、議長が議員の発言を取り消させることを明らかに留保するときには、発言取消しの留保宣告を行うことができると解される。なお、この発言取消留保宣告も発言の取消命令と同様の理由により、発言がなされた当該会期中に行う必要がある。そしてこれらは、後刻速記録を調査の上、取り消すべき発言かどうかを判断し適当な措置をとることとなる。
なお、参考までに衆議院先例275を掲げておく。
【衆議院先例275】議長は、不穏当と認める言辞の取消しを命ずる。
第1回国会以来、議員の発言で不穏当と認める言辞があるときは、議長は、その取消しを命ずるか、又は速記録を調査の上不穏当の言辞があれば適当の措置をする旨を宣告し、調査の結果不穏当の言辞があったときは会議録から削除している。