2014.03.10 議会運営
第34回 反対表決について/会期最終日における議事日程追加の取扱い
反対表決について
長提出の補正予算案に対して議長が起立表決により採決を行ったところ、起立者多数と議長が宣告したが、念のため反対表決をとることとなった。この場合に反対者が起立多数になった場合、先の起立表決の議決が有効なのか。それとも後に行った反対表決の議決が有効となるのか。
議会における表決方法の原則としては、標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)70条に規定されている起立表決が原則となる。
そもそも起立表決とは、表決に付された問題に対して議長の求めに従って賛成又は反対の意思を有する議員をそれぞれ起立させることにより、議長が起立者が多数であるか少数であるかを全体として捉え、過半数の場合は可決を宣言する表決方法をいう。
起立表決において議長が問題を可とする者、すなわち賛成者を起立させることにより表決を行うのは、会議原則のひとつである可を諮る原則によるからである。ちなみに可を諮る原則とは、表決において案件に対する賛成者の表決態度を求める方法をいい、賛成者先諮の原則ともいう。
起立表決で議長が起立者の多少の認定を行うが、この議長による起立者の多少の認定は、議長が起立表決に当たり起立者数の具体的な把握を意味するものではなく、議長の目測による判断により多いか少ないかを認定することをいう。
そして、起立表決は起立の瞬間を捉えて採決を確定させることから、理論上、瞬間的に誰が起立したかどうかを具体的に特定し把握することは不可能だからである。
ここで、本問におけるように議長が案件に対する起立表決を行い、起立多数として宣告したにもかかわらず、起立多数と認定したことに疑問を生じた場合に、念のためとして反対者がどの程度いるかを確認する反対表決を行う場合が実務上見られる。
この場合における反対表決とは、案件に対する反対者の表決態度を求める表決方法をいう。この反対表決は可を諮る原則に反することから、反対表決を用いる議事運営を行うことは適当でないといえる。
そもそも起立表決で賛成者が過半数に達しているか議長の判断が困難な場合、市会議規則70条2項に規定のとおり、記名又は無記名の投票で表決をとらなければならない。このとき、記名又は無記名のどちらの投票で表決をとるかは、議長の判断によることとなる。
ここで、議長が自らの判断で記名又は無記名のどちらかの表決方法により表決を行うこととした場合に、この議長の判断に対し議員が異議を述べることができるか疑問が生じるが、議員は当該議長の判断に対して異議を申し立てることはできない。この場合にまで異議を認めることは、かえって議事運営の円滑化を阻害するおそれがあるからである。
ところで、起立表決を行うに当たっては、投票表決におけるのと同様、議場を閉鎖する必要があるか疑問が生じるが、投票表決は投票行為に時間がかかることから、表決の瞬間を捉えることができないため議場の閉鎖がなされている。しかし、起立表決は議席における各議員の起立又は着席により、議長が各議員の賛成又は反対の意思表示を瞬間的に捉えることができることから、議場閉鎖の必要性はない。
さて、起立表決を行った後に反対表決を行い、両方の表決における起立者が起立多数であったとした場合、あくまで可を諮る原則にのっとり行われた最初の表決に対する議長の宣告が有効となり確定することとなる。最初の起立表決に対する議長の宣告に対し異議があれば、市会議規則70条2項により異議を述べることが認められており、これによるべきであるからである。それゆえ異議がないということは、議長の認定行為に対し議場にいる議員が了解をしたことを意味しているからである。
ちなみに、議長が最初から反対表決を起立により行い、反対の起立者が少数である場合、当該案件は可決とみなされるのか疑問が生じるが、反対表決を否決すること、すなわち否の否は可とはならず、議会の意思が未決定であるといえる。つまり、この場合さらに当該案件に対する賛成者の起立を諮る必要があり、市会議規則70条における可を諮る起立表決を行うに比べ、議事能率の観点からも問題が生じるため、最初から反対表決をすることは行うべきでないといえる。
会期最終日における議事日程追加の取扱い
会期の最終日に日程が議長より配布された後に、議員より議長に対し議案が提出された。そのため議長が当該案件に対し日程追加を諮ったが議会において否決された場合、議長は閉会を宣告することができるのか。
議会の開閉については地方自治法102条7項に「普通地方公共団体の議会の……開閉に関する事項は、議会がこれを定める」とされ、開閉に関する手続は議会固有の権限として明記されている。
また、これを受けて市会議規則8条で「議会の開閉は、議長が宣告する」と規定されている。
つまり、議会の招集は原則として市長の権限とされているが、招集後の運営は議会の自律権に任せ、その手続は議会自らが会議規則に規定すべきものであるとされている。
そこで本問を考えると、議案は理論上、会期中であればいつでも提出することができ、所定の要件が整っていれば、議会は会期中に審議する義務がある。ただ、会期の最終日に議案が提出された場合、その議案は議長が議事日程を作成するまでであれば、あらかじめ日程に掲げることとなるが、開議宣告後は議会の審議の中で日程追加を諮ることとなる。
日程追加を諮るタイミングとしては、議事日程の途中で諮る場合と、議事日程の最後に諮る場合の2通りがある。
議事日程の途中で日程追加を諮り否決された場合は、再度その日の議事日程が全て終了した後に諮る必要がある。議事日程の途中では日程追加を認めなくても、全ての議事が終了した後であれば議事日程を認める余地があるからである。
しかし、議事日程が全て終了した後に日程追加を諮り否決された場合、審議に入ることが拒否された議案が残ったままで議長は閉会を宣告することができるか問題となる。
これに対しては、議案の日程追加を否定することは、形式的にはその日の議事を全て終了したことになり、閉会宣告をすることもやむを得ないという運用に基づく考えがある。しかし、議案はあくまでも日程追加を否決されても議長の手元に残っており、全ての議事を終了していないので、閉会宣告をすることはできないと考えるべきである。すなわち、日程追加を否決された議案は消滅するわけではないので、閉会宣告をすることはできない。つまり、休憩のまま会議規則に定める閉講時刻が到来することにより自然閉会となる。
ただ、これ以前の問題として、審議することを旨とする議会が、日程追加を否決するという議事手続上の処理だけで審議にすら入らないことは、議会の存在意義を自ら下げることになり適当でないこと、さらに、会議規則上、議長の宣告により開閉できることから、議案を全て議了しなくても閉会宣告できるのではと考える向きもあるが、これらは会議規則に規定する以前の問題で、議会に提出された議案を全て審議し議了しない限り、閉会することはそもそも規定するまでもないという考えに基づくものであることに留意を要する。
なお、これには例外がある。例えば、緊急質問の申出があった場合と閉会の取扱いである。緊急質問の申出は、これを認めることと、日程に追加し直ちに質問を行うことが一体となっているものと考えられるので、日程追加が否決されれば、申出が消滅する。そのため案件が残っているとはいえず、閉会することができる。