2018.07.10 政策研究
ニュージーランドに見る観光施設などの認証制度
元日本経済新聞論説委員 井上繁
ラグビーの世界的な強豪であるニュージーランドのオールブラックスのユニホームやエンブレムにはシルバーファーンをあしらっている。この国に自生し、樹木のように大きく育つ特有の木性シダである。葉の裏が緑でなく銀色のため、晴れた日の夜、これを裏返して地面に置くと月光に反射する。かつて先住民族のマオリ族は、夜間の戦闘でこれを活用して、自分たちの向かった方向を無言で仲間に示した。現代では、「前進」や「躍動」の象徴になっている。
同国をドライブした際、ホリデーパークの入り口を示す看板でもシルバーファーンのマークを見つけた。ホリデーパークは広い敷地に、1棟ごとのキャビンをはじめ、キャンピングカー用のスペースやテントを張る用地もそろっている。子どもの遊び場や温水プール、バーベキューの設備などもあり、家族で宿泊して楽しめる。
施設で見かけたシルバーファーンは「クォールマーク」といって、ニュージーランド政府観光局と観光関連団体が設立した組織が観光関連ビジネスを評価する公的な品質認証制度である。マークは、右肩上がりにデザインしたシルバーファーンがひときわ目立つ。葉は銀色を思わせる白と、黒の2色で、葉の下に「qualmark」と書いてある。
クォールマークの中でも宿泊施設については、ホテル、自炊設備付きのモーテル、朝食付きのベッド&ブレックファースト、ホリデーパーク、ホリデーホーム(貸し別荘)、長期滞在に向いたアパートメント、格安のバックパッカー用施設など種類ごとに分けて個別の施設を格付けしている。格付けは、最高の5つ星から1つ星まで、5つ星以外は星にPlus(プラス)が付くこともあり、全部で9段階に分かれている。格付けに当たっては、部屋数などのハードより、サービス品質向上の仕組みなどに重点を置いている。
バス・レンタカー・フェリーなどの交通、バンジージャンプ・ダイビング・ヨットなどのアクティビティ、土産店などサービス、旅行会社の委託を受けてホテルやレストランなどの手配を行うツアーオペレーター、観光案内所などについては、格付けではなく、基本的な品質基準を満たしているかどうかの合否判定で認証を行っている。これらについては、合格すると「Endorsed(認証済み)」と記したマークを付けることができる。
これに加えて、環境に配慮していることを示す「エンヴァイロ・アワード(環境賞)」と記した緑色のクォールマークもある。上記2種類のクォールマークの審査でも環境に対する負荷などの審査を受けているが、その基準を満たした上で、エネルギー効率、廃棄物管理、節水などを通じて地域社会に貢献している場合にこのマークの使用が認められている。環境賞は取組みの度合いによって金、銀、銅の3段階に分かれている。
宿泊施設の格付けについてはフランス、英国、米国、中国などでも実施している。認定組織やその基準、等級などはまちまちである。ニュージーランドの場合は、9段階と細かく分かれ、環境については特に熱心に取り組む施設に追加の賞を出している点に特徴がある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えた日本でも、訪日外国人観光客に分かりやすい品質認証を導入する動きが出ている。
この制度の先進国であるニュージーランドでは、品質認証制度がどう普及しているのだろうか。AAトラベラー社発行の同名のガイドブックに掲載されている宿泊施設を対象にクォールマーク表示の有無を調べた。対象にしたのは『AAトラベラー』北島と同南島の宿泊施設2018年版の2冊である。調査結果によると、1つ以上のクォールマークを表示している施設は、両島合わせて250で、総掲載施設に対する比率は18.4%だった。マーク表示の数で見ると、内訳は1つが209、2つが38、3つが3で、延べマーク数は294、総掲載施設数に対する比率は21.7%である。
同ガイドブックは空港や各地の観光案内所で無料配布されている。外国からの来訪者だけでなく、国内の旅行者も活用していると思われ、少なくとも3つ星以上の認証を受けていれば掲載しない理由はないだろう。ガイドブックでのマーク掲載率が2割前後にとどまっていることは、普及率の向上に課題のあることを示している。