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2018.05.10 政策研究

まねをしてほしくないニュージーランドの図書館経営

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 内外の都市や地域の詳しい情報を調べるには、現地の公共図書館が便利だ。事前の予約は不要だし、先進国の図書館はレファレンス機能が充実していて、情報源などを教えてもらえる。資料の複写などをしない限り、費用がかからないのもよい。だが、2018年2月にニュージーランドの図書館を取材して、こうした伝統が崩れていることを知った。
 北島東海岸のワンガマタは人口4,000人。サーフィンや海釣り、マウンテンバイクなどの盛んなリゾート地である。ここのコミュニティ図書館は、所蔵している本を館内では無料で読めるが、借りるとすべて有料である。書棚の見やすい場所に、その料金が大きな字で書いてある。新刊本は1.5ニュージーランド(NZ)ドル(約=以下同じ=120円)、新刊の雑誌は1NZドル(80円)、その他は50セント(40円)といった具合である。貸出しはすべて有料という例は、この国全体ではまだ少数派のようだ。
 ただ、この国の公共図書館のほとんどが、一部の書籍の貸出しについて部分的に有料制を導入している。人口137万人とさいたま市より多く、55の図書館があるこの国最大のオークランド市の場合、本や雑誌などは原則無料だが、新刊本で人気のあるものだけは2週間で6NZドル(480円)である。CD、DVDなどは、教育、教養的なものは無料だが、娯楽的なものは2.1NZドル(168円)である。
 首都のウエリントン市の場合は、単行本の貸出しはすべて無料だが、雑誌は50セント、CDは1NZドル、ビデオ・DVDは4NZドル(320円)である。19歳以上の成人が貸出しの予約をしたり、他の図書館から取り寄せたりした場合は2NZドル(160円)、借りた図書館以外に返却すると1NZドルの手数料がそれぞれかかる。
 テームス・コロマンデル地方は人口2万9,000人。3つの図書館があり、総蔵書数は5万2,000冊である。同地方の場合、新刊の小説、DVDなどが2.5NZドル(200円)、雑誌が1NZドルである。
 返却が1日でも遅れると、返却遅延料が課される例が多い。遅延料はものによって異なり、オークランド市で1日につき(以下同じ)1~2NZドル、ウエリントン市で60セント(48円)~1NZドル、テームス・コロマンデル地方で50セント、子どもの本や雑誌などは10セント(8円)といった具合である。だが、タウランガ市のように、子どもと未成年からは遅延料を徴収していないところも多い。
 半面、一部の図書館では、住民でなくても登録すれば本などを貸し出すサービスを導入している。オークランド市の場合、登録料は3か月41.3NZドル(3,304円)、6か月82.6NZドル(6,608円)、1年165.3NZドル(1万3,224円)である。ワンガマタにはホリディ会員制度がある。12月から2月までの夏期に最大3か月間だけ登録し、住民同様に有料で借りることができる。登録料は20NZドル(1,600円)である。
 日本の図書館の場合、廃棄する本を無料で提供するのが一般的である。この国の各地の図書館で、それをワゴンに並べて販売する光景を見かけた。オークランド市のパパクラ図書館で雑誌・新書など1冊20セント、6冊で1NZドル、ハードカバー本1冊で50セント、3冊で1NZドル、DVDなど1NZドル、ウエスタン・ベイ・オブ・プレンティ地方のカチカチ図書館で本1NZドル、雑誌20セント(16円)、DVDなど2NZドル、子どもの本50セントなどで、都市部では安く、地方は高めの傾向がうかがえた。全体として財政の厳しい自治体ほど増収対策に力を入れているようだ。
 日本の図書館法は「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」(17条)と定めている。文字・活字文化振興法には、基本理念として、すべての国民が、等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備するという趣旨の条文もある。
 未返却本への対応で頭を痛めている図書館が少なくないからといって、日本では図書館の有料化や延滞料制度の導入は法律上も難しい。これは、まねをしてほしくない海外の地域政策の一例である。

オークランド市中央図書館には日本語図書のコーナーがあり、利用登録すれば無料で借りられる。オークランド市中央図書館には日本語図書のコーナーがあり、利用登録すれば無料で借りられる。

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