2018.03.26 政策研究
配布資料が欠けている研究会 ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その1)─
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
前回まで、総務省に設置された地方議会・議員に関する研究会がまとめた『地方議会・議員に関する研究会の報告書』(2017年7月)の検討をしてきた。このところ、総務省では、ほぼ切れ目なく毎年のように地方議会に関する研究を行っている。本連載で、何回かに分けて検討を続けているうちに、新たな報告書が出てしまうという状態であった。前回までにようやく『地方議会・議員に関する研究会の報告書』の評論を終えたところである。今年も、そうこうするうちに、次の研究会である「町村議会のあり方に関する研究会」(以下「研究会」という)の報告書が準備されている。そこで、今回から、上記研究会の報告書を検討しようと考える次第である。
当初、2018年3月上旬までには、研究会による報告書が完成・公表されるであろうと思われていた。しかし、本連載の締切(3月上旬)を過ぎても、3月6日開催の第7回研究会を終えても、最終報告書が公表されていない(1)。こうして、7回目の3.11である本日においても同様である(2)。そこで、今回は手続問題として研究会の過程を検討することとし、実体問題である研究会の報告書の評論は、次回以降に持ち越すことにしよう。
開催目的の方向性
研究会は2017年7月27日に第1回会合が開催された。開催要綱によれば、「議員のなり手不足等により特に町村議会運営における課題が指摘されていることにかんがみ、小規模な地方公共団体における幅広い人材の確保、町村総会のより弾力的な運用方策の有無その他議会のあり方に係る事項などについて具体的に検討を行うため」に開催するという。
もともと、高知県大川村が、議員のなり手不足の問題などから、議会を廃止して、町村総会を設置するという構想を示し、それに対して、国が対応を求められたという経緯がある。それを反映して、「町村総会のより弾力的な運用方策の有無」ということで、町村総会も議題に設定されている。
もっとも、「有無」というように、「ゼロ回答」の結論を暗示している。むしろ、当初から、硬直化した現行議会と同じような弾力的ではない町村総会の運用方策については、「無」を前提として、地方議会を「弾力化」する方策を検討する意図が示されているといえよう。つまり、公式的でしっかりした重厚長大の議会ではなく、非公式でゆるゆるとした軽薄短小の議会の運用方策を目指すということであろう。
加えて、「幅広い人材の確保」が課題のようである。もっとも、この論点は、累次の研究会報告書でも議論されてきたが、決め手がないというのが実態である。大川村でも、町村総会というアイデアが出てきたのは、現実的に指折り固有名詞を挙げて考えていくと、議員候補が足りず、議員定数が満たせないという危機感があったからである。
町村総会の最大の難点は、数人の議員すらなり手がいない中で、町村総会という、全ての有権者が総会という会合の「なり手」になることを期待するという根本矛盾があることである。有権者の大半が議員になりたがるという事態ならば、町村総会は「なり手」がある。しかし、議員数人(大川村議会は定数6)すら確保できない以上、ましてや、町村総会の実質的な出席者という「なり手」など確保できるわけはないのである。つまり、町村総会は、名目的には議会に代わる存在であるが、実態としては「無」となる。町村総会という議会廃止が、現実的な運用方策になり得ないという意味で、開催要綱が、あらかじめ「町村総会の運用方策は無」と決めたことは、妥当だったといえよう。
結論からいえば、開催要綱では、町村議会をゆるい軽薄短小な存在にしようということが、検討課題なのである。