2017.12.25 政策研究
【フォーカス!】23区の大学定員抑制 -都知事らの反発も必至-
即効性はあるのか?
政府の「地方大学の振興および若者雇用等に関する有識者会議」は12月8日、最終報告書「地方における若者の修学・就業の促進に向けて―地方創生に資する大学改革」をまとめ梶山弘志地方創生担当相に提出した。東京一極集中を是正するため、①東京の大学の定員抑制、地方移転、②地方の特色ある創生のための地方大学の振興、③地方における若者の雇用の創出―を3本柱としている。
梶山担当相は「従来にない抜本的な対策」と評価、来年の通常国会に3つの要素を盛り込んだ法案を提出する考えだ。地方大学の振興に資する交付金の創設を盛り込むことから、予算関連法案として3月末までの成立を目指す。
深刻な学生の一極集中
報告書が対策を求める最大の理由は、東京一極集中の大きな部分を大学進学時の人の移動が占めているからだ。東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)への転入超過は12万人規模となっており、このうち大学進学時は7万人程度の転入超過と推計されている。
現在、全国の大学生287万人の40%(117万人)が東京圏におり、うち東京都は26%(75万人)、東京23区は18%(53万人)となる計算だ。工場等制限法が廃止され、23区内での大学の立地に規制がなくなったことから、23区の割合が高まってきた。近年でも13の大学が23区内にキャンパスを移している。
さらに考慮すべきは、今後の人口の推移だ。国内の18歳人口は近年のピークである1992年には205万人いたが、2017年に120万人に減り、2040年には88万人になると予測されている。
大学の進学率は50%弱、短大や専修学校などを含めると80%あり、これ以上のアップは諸外国の例からも期待できない。つまり、18歳人口が大きく減少する中で、若者に人気のある23区の学生の定数を据え置いたとしても、地方全体では毎年1%弱ずつ学生数が減っていく可能性がある。長期的には大幅な減少となるだろう。
これらによって、地方にある中小規模の私立大学を中心に経営が悪化する大学が出てくる。大学の閉鎖、新陳代謝も現実味を帯びてくる。この危機を「見える化」して危機感を共有した上で、東京にある大学は世界から学生を集める方向に進化し、地方の大学は「総花主義」から脱却し、強みのある分野の強化に取り組み学生を集められるように役割分担をしていこうという考え方が示されている。
全国的な大学の適正配置(全体最適)については、座長代理の増田寛也元総務相が記者会見で「今後、文部科学相の諮問機関の中央教育審議会で検討していただきたい」と話した。
産官学連携
報告書の内容を詳しく見よう。政策の目玉は、東京23区においては「学部・学科の所在地の移転等も含めて、原則として大学の定員増は認めない」とした。抑制期間は、期間を区切らない考えと一時的措置の両論を併記した。
さらに例外扱いのケースとして、東京の国際都市化に対応する場合や留学生、社会人のリカレント教育などを挙げた。
東京の大学の地方移転では、東京の大学がサテライトキャンパスを設置することを想定、地方側と大学とをマッチングする仕組みの検討や、国や自治体による支援、大学の負担についてのルールづくりを求めた。
一方、地方大学の振興では、①首長のリーダーシップによって産官学の連携を強化するための推進体制(コンソーシアム)を構築、地域の中核的な産業の振興や専門的な人材育成などを盛り込んだ振興計画を策定する、②地方創生の優れた事業として国が認定したものには新たな交付金を創設して支援する、③東京圏と地方の大学の対流・交流を進める―ことを挙げた。
産官学連携では、富山県が富山大、県立大、県薬業連合会、政府機関が連携することで新型インフルエンザ治療薬などを開発、医薬品生産額が2005年度の全国8位から2015年には全国1位にまでなった例がある。
地方での若者の雇用の創出では、大企業の本社機能の一部移転によって1万1560人の雇用創出が予定されていることや、東京圏の学生のUIJターンによって地方企業への就職を促進する奨学金返還支援制度について現在24県で制度が設けられていることなどを紹介している。
期待先行
座長の坂根正弘コマツ相談役は、会議終了後の記者会見で「この国の課題は根深く一朝一夕では改善しない。東京が地方から人も物も金も集めて発展してきたため、地方は疲弊している。もう限界だ」と指摘、東京は世界からあらゆるものを集める国際都市になるべきだと提案した。そのためには「東京の大学は国際化すべきだ。地方の大学はもっと特色を出すべきだ」と話している。
地元の小池百合子東京都知事はこれまでも「大学の国際競争力を低下させ、国益を損なう」などと述べて、定員の抑制に反発しており、今後の政府内の調整が注目される。
ただ、これら報告書の措置が法制化されても、地方からの大学生の流入がどれだけ減らせるかといった試算は示されていない。実現すれば、確かに長期的には何らかの効果が出るだろうが、現段階で定量的に示すことはできない。
政府は、東京圏の転入者と転出者の数を東京五輪が開かれる「2020年には均衡させる」という目標を掲げている。そのための有効策としているが、短期的な効果は薄いのは明らかだ。現段階では、期待先行と言わざるを得まい。即効性のある一極集中是正策も求めたい。